継接ぎ型論文に陥るのを防ぐには

ビギナーの研究者が犯しがちな不適切な数量的な実証論文の1つに、変数間の説明を異なる理論を用いて説明している、すなわち、論文全体が異なる理論による変数間の継接ぎのような状態になっているものが挙げられる。これを「継接ぎ型論文」と呼ぶならば、継…

学術論文とは何か、どう書けばよいのか

小熊(2022)は、できるだけどの分野にも汎用性のある「論文の書き方」を解説しており、そもそも論文とは何かという点から丁寧に説明を始めている。小熊によれば、論文とは「相手を説得する技法」から発達したものである。その際、説得力を高めるために、「ど…

質的比較分析(QCA)の直感的理解

近年、経営学の分野で、質的比較分析(QCA)を用いた研究が徐々に増えている。しかし、それらの研究で行われている分析がそもそも何をやっているのか、そしてなぜ「質的比較分析」というのか、直感的には分かりにくい。質的研究と言っても、集合論やブール代数…

経営学における因果複雑性と質的比較分析(QCA, fsQCA)

田村(2015)によれば、経営学の主たる目的は経営事象にまつわる因果関係の解明であるが、経営学で明らかにしたいような法則性というのは、自然法則のような普遍法則ではない。まず、対象となる因果関係が該当する場所と時間の制約があり、その妥当性も短時間…

エージェントベースモデルで学ぶ「組織のゴミ箱モデル」

経営学や組織論を勉強したことがあれば、組織における意思決定の「ゴミ箱モデル」というものに遭遇したことが何度かあるだろう。オリジナルなゴミ箱モデルは、1972年というかなり昔にコーエンらによって提唱されたものである。経営学や組織論においてこのモ…

固定効果と変量効果の直感的理解

経営学や組織行動論を始め、近年の社会科学では、デジタル化の影響もあって大量のデータがとりやすくなってきた。さらに、1人から複数時点でのデータを取得することも昔よりも容易になってきた。そこで、同じ変数を個人とか企業(個体)から時間をおいて何…

エージェントベースモデルで学ぶ「鳥の群れ型リーダーシップ」

組織は精密機械のごとく厳密に設計されて運用されるという側面もないわけではないが、個々のメンバーがある程度の自由度をもって活動する中でも、同僚と何らかの相互作用を行うことで、組織全体として秩序あるパターンが生まれてくる(創発する)側面を強く…

生物は流れている

更科(2019)は、生物の体は物質の流れだという。例えば、自動車と生物を比べてみるならば、自動車は動かすためにはエネルギーが必要で、エネルギーが流れているといえるが、自動車という物質は流れていない。一方、生物の場合は、エネルギーだけでなく物質も…

動的平衡という「流れ」

福岡(2017)は、分子生物学の観点から、生命というのを分子レベルでとらえた場合に、デカルト的な機械論生命観とはまったく異なる様相を示していることを説明している。動的平衡という流れとしてとらえるそのような生命観とは、どのような姿なのかについて、…

組織行動のコンピュータ実験室(NetLogo Web版)

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組織行動のコンピュータ実験室(MASコミュニティ版)

組織文化・流行伝播 チーム・協力 社会ネットワーク その他 Artisoc cloud MASコミュニティ https://artisoc-cloud.kke.co.jp/models/92uUWGhVSLyQaAZiLy2kRA mas.kke.co.jp

組織行動のコンピュータ実験室

組織のゴミ箱モデル 組織構造と組織行動 チーム・集団力学 組織学習 組織文化、組織内浸透 オープン・ライブラリー www.comses.net

経営学における「必要条件分析(necessary condition analysis)」の重要性

経営学においては、あるいは経営学のみならずさまざまな学問分野において、因果関係を論じることは理論構築の本質的作業である。しかし、気を付けなければならないのは、因果関係を論じる際に、「必要条件」と「十分条件」そして「必要十分条件」の違いを明…

「対話」としての学術論文

個別の研究課題は、学術論文として学術雑誌に掲載された時点でいったん終了する。とはいっても、学術雑誌に掲載させるまでの道のりは平たんではなく、投稿先雑誌の選定から投稿、改訂のうえ再査読などを経て掲載決定に至るが、とりわけ影響力が大きいトップ…

統計学の認識論:ベイズ主義と頻度主義

大塚(2020)は、統計的手法とは特定の科学的仮説をデータから正当化するための認識論的装置であるという視点に立ち、帰納推論によって真実に近づこうとする統計学が、いかなる形でそれによって得られる信念を知識として正当化できるのかを、ベイズ主義と頻度…

統計学はどのように世界を理解しようとするのか

大塚(2020)によれば、統計学、とりわけ推測統計は、「帰納論理」「帰納推論」を通して世界を理解しようとする学問であり、統計学自身が、一定の存在論的前提に立つ科学認識論でもある。 一般的に、与えられた経験、観測、データをもとにして、まだ観測されて…

ベイズ主義、尤度主義、頻度主義の関係性

科学は、数学のように論理のみで閉じた世界ではなく、理論や仮説を常に経験(証拠)と照らし合わせることで発展する。観測から得られる経験や証拠には確率的要素を排除できないため、科学的方法の根幹を支えるのが、統計的推論であるといえる。研究の過程で…

経営学における「探求する精神」:基礎科学から何を学べるか

経営学は応用的な学問分野であるため、「経営学は実務の役に立つのか」というのは常につきまとう問いである。実務の役に立つ経営学研究はどのようにすれば可能なのかという問いに置き換えてもよいだろう。今回は、この問いに答えるために、大栗(2021)が基礎…

京都大学国際高等教育院 外国文献研究 推薦図書リストの紹介

この授業は、主に大学2年生向けに、英語で書かれたビジネス分野の入門テキストを用いて英語文献を読みこなす能力とビジネスに関する知識の両方を獲得することを目的とした授業です。毎回の授業で、該当するチャプターに関連するビジネス分野の名著を紹介し…

哲学・倫理の書として読む「易経」

松枝・竹内(1996)によれば、易経(周易)は、最初は運勢を判断する言葉を集めただけのものであったが、後になって言葉の注釈や周易全体を統一的に解釈するための理論が展開され、次第に哲学書としての体裁を整えるようになった。これらの注釈や易理論を編纂…

易で兆しを読む方法

河村(2008)は、易は「機」の哲学だという。易の別名を「変易」ということとも関連している。万物は、一刻も休まずに生成し化成し常時変化してやまない。こうした止どまるを知らず常に変わり続ける動きを重視するのが易の基本的な姿勢だというのである。具体…

易の構成

川村(2008)によれば、易は、この世の森羅万象は8つの要素で成り立つとし、それぞれに自然や人間関係、あるいはその性質・性状などをあてはめ、それで私たちの周りに起こるあらゆる現象を解明し説明しようと試みたものである。その核となるのが、陰陽の考え…

易はどのようにして出来上がったのか

黄(2004) は、易占いに用いられる周易というものが、三千年ほど前に中国でどのようにしてできあがってきたのかについて、以下のように説明している。 まず、その時代に生まれた中国の人々の意識に強烈な印象を与えたものは、「天」と「地」であったはずであ…

統計分析で道具変数(instrumental variable)を用いて内生性(endogeneity)を解決する方法

以前、経営戦略論に代表される経営学の実証分析において、統計モデルに内生性が存在する場合、結論において重大な誤りを犯す危険性を説明した。 経営戦略論で内生性(endogeneity)が大きな問題となるのは何故か そこで重要となるのが、何らかの方法で内生性の…

「平均値に差がない」という仮説を検定する方法の直観的理解

基礎的な統計学において必ず学ぶのが「平均値の差の検定」である。これは、2群の平均値に差があるという仮説がデータから指示されるかを検証する方法で、最も基本的な方法は、帰無仮説と対立仮説を立て、t検定によって検証するという方法である。「平均値に…

経営戦略論で内生性(endogeneity)が大きな問題となるのは何故か

経営戦略論の研究で頻繁に問題となるのが、実証研究における内生性(endogeneity)という問題である。その理由として、内生性は、とりわけ戦略論という経営学の中の1分野が対象とする領域や理論、および戦略論で頻繁に行われる実証研究の方法と深く関連してい…

経営学の役割は、意思決定に役立つ知識・情報を提供することである

経営学の目的は何かと聞かれれば、それは企業経営に対して正解を与えることだと答えるかもしれない。しかしそれは違うといいたい。経営学は、現状の経営状態に困っている経営者に対して、処方箋を与えるものではない。経営を改善するための経営手法を生み出…

組織行動論・人的資源管理論のためのR入門

統計分析をするためのソフトはたくさんあるが、近年、もっともよく使われ、標準になりつつあるのがR言語である。R言語の良いところは、フリーソフトウェアであるため、誰もが自分のPCにインストールして利用できる点である。フリーソフトウェアであっても…

筋の良い研究と筋が悪い研究とは何が違うのか

将棋や囲碁において筋の良い手と筋の悪い手が存在するように、経営学に限らず学術研究にも、筋の良い研究と筋の悪い研究が存在するように思われる。ただし、「筋の良い研究=優れた研究」「筋の悪い研究=ダメな研究」というわけではないことに注意されたい…

APA Publication Manualで学ぶ経営学研究法

APA Publication Manualは、米国心理学会が標準としている論文作成のための規則であるAPA styleを詳細に解説したマニュアルである。米国心理学会による標準だといっても、心理学にとどまらず、経営学やその他多くの社会科学などのジャーナルで標準になってい…