経営学における「必要条件分析(necessary condition analysis)」の重要性

経営学においては、あるいは経営学のみならずさまざまな学問分野において、因果関係を論じることは理論構築の本質的作業である。しかし、気を付けなければならないのは、因果関係を論じる際に、「必要条件」と「十分条件」そして「必要十分条件」の違いを明確にし、これらを混同しないことである。今回は、この中でもこれまで十分な分析手法が開発されてこなかった「必要条件分析(necessary condition analysis: NCA)」の重要性について、Dul (2016)らの論考に準じつつ説明したい。

 

今回の対象とするのは、必要条件、もっと厳密にいえば、「必要ではあるが十分ではない」という条件(必要条件であるが十分条件ではない)である。これは、ある結果がもたらされるためには特定の要因が「必要」ではあるが、それがあるからといって必ずその結果がもたらされるわけではない(十分条件ではない)という因果関係を論じることを意味している。別の言い方をすれば、ある要因が存在しない状況では、特定の結果は生じえないという論理でもある。

 

経営学において一般的に多く用いられる因果関係が、特定の要因がある結果をもたらす(X → Y)というものであり、仮説としては、「XはYと関係している」「XはYに影響を与える」というようなものである。それを検証するのに、分散分析や重回帰分析などの線形モデルが用いられる。これは、因果関係ロジックとしては、「十分条件」を示している。XとYの完全な線形性を仮定しているならば、それは、「必要十分条件」である。それに対して、XとYが必要条件の関係になっている場合には、必ずしもXとYが線形の関係になっているわけではないので、回帰分析をやっても有意な結果が得られないかもしれない。

 

では、必要条件が実際に存在したとしても、それが伝統的な分散分析や重回帰分析で有意な結果がでないような関係、すなわちある特定の結果をうまく予測できないようなものであるならば、経営学にとって、そのような要因は取るに足らないものであり、無視してもよいといえるのだろうか。別の言い方をすれば、必要条件のロジックは経営学にとってどれだけ大事なのだろうか。これについては、必要条件は非常に重要なロジックだと言わざるをえない。なぜならば、必要条件は、ある意味「ボトルネック」の存在を示唆しているからである。

 

オペレーションズ・マネジメントなどで有名な制約理論「TOC」のコア概念でもある「制約条件」「ボトルネック」はまさに必要条件に相当する。ある結果(例えば、売り上げや利益)を生み出すために、いくら様々な別の条件がそろっていたとしても、対象となる特定の条件が満たされない場合には、それが制約となって結果が生じないのである。よって、ボトルネックを見つけ出すことが経営上、必要不可欠である。これほど重要な概念もなかなかないだろう。

 

上記のように経営学にとっても非常に重要な「必要条件」であるが、Dulによると、過去の経営学研究の多くは、理論を構築する時点では、必要条件であることを前提にロジックを組んでいるのに、具体的な仮説の段階になると、先ほど述べたように「XはYと関係している」「XはYに影響を与える」といった仮説となってしまい、回帰分析で仮説を検証するスタイルになってしまっている。いつの間にか十分条件のロジックにすり替わってしまっているのである。こうなってしまっていたのは、必要条件を適切に検証するための統計ツールがこれまで普及していなかったからだとDulは指摘し、よって、必要条件を分析するための方法として、必要条件分析(NCA)を提唱するに至ったのだというのである。

 

では、Dulの提唱する必要条件分析(necessary condition analysis: NCA)とはどのような分析なのだろうか。これを、XとYのデータの散布図のイメージを用いて直感的に説明すると、Xが低い時には、Yが高いデータは存在しないのだが、Xが高い時には、Yが高いデータも低いデータも両方存在するということを確認し、検証するプロセスになる。XやYが連続変数ではなく、2値変数や離散変数のときもロジックは同じである。つまり、Xが低い(ない)ときには、Yは高まらない(生じえない)から、XはYが高まる(生じる)ためには必要不可欠である(必要条件)。一方、Xが高い(存在する)からといって必ずしもYが高まる(生じる)わけではない(Yが低い、生じないケースがある)という意味で、十分条件とはいえないというわけである。

 

これを視覚的にイメージすると、散布図の左上の部分(Xが低く、Yが高いエリア)のみに、データが存在しない「空白地帯」が観察されるはずである。これが意味のある空白なのかを統計的に分析するというわけである。左上の空白地帯の三角形が、散布図全体のエリアとの比において十分に大きい場合、XはYの必要条件であることが示されることになる。具体的な計算方法や、検定方法については、Dulらの一連の著作によって解説されている。

文献

Dul, J. (2016). Necessary condition analysis (NCA) logic and methodology of “necessary but not sufficient” causality. Organizational Research Methods, 19(1), 10-52.

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