経営学の役割は、意思決定に役立つ知識・情報を提供することである

経営学の目的は何かと聞かれれば、それは企業経営に対して正解を与えることだと答えるかもしれない。しかしそれは違うといいたい。経営学は、現状の経営状態に困っている経営者に対して、処方箋を与えるものではない。経営を改善するための経営手法を生み出…

組織行動論・人的資源管理論のためのR入門

統計分析をするためのソフトはたくさんあるが、近年、もっともよく使われ、標準になりつつあるのがR言語である。R言語の良いところは、フリーソフトウェアであるため、誰もが自分のPCにインストールして利用できる点である。フリーソフトウェアであっても…

筋の良い研究と筋が悪い研究とは何が違うのか

将棋や囲碁において筋の良い手と筋の悪い手が存在するように、経営学に限らず学術研究にも、筋の良い研究と筋の悪い研究が存在するように思われる。ただし、「筋の良い研究=優れた研究」「筋の悪い研究=ダメな研究」というわけではないことに注意されたい…

APA Publication Manualで学ぶ経営学研究法

APA Publication Manualは、米国心理学会が標準としている論文作成のための規則であるAPA styleを詳細に解説したマニュアルである。米国心理学会による標準だといっても、心理学にとどまらず、経営学やその他多くの社会科学などのジャーナルで標準になってい…

学術論文の考察(Discussion)の書き方

学術論文を執筆する際、冒頭(Introduction)、理論や仮説、方法と結果までに力を尽くし、それらが完成すればおおよそは論文は完成に近いと思うかもしれない。そして、考察(Discussion)は、論文の「おまけ」のように思うかもしれない。しかし実は、優れた考察…

対数正規分布が世の中の主要な統計分布である理由

松下(2019)によると、世界の物事のほとんどは、統計的に分布をとると、正規分布、べき乗分布、対数正規分布の3種類のどれかに近い形になる。正規分布は左右対称の釣り鐘型の頻度分布であり、べき乗分布は右肩下がりで頻度が同じ割合で減少し続ける代表的な…

単純傾斜分析(simple slope analysis)の直感的理解

独立変数間の交互作用を含む重回帰分析において、交互作用が有意になった場合に、その交互作用の特徴を理解するために行われる分析の一つが、単純傾斜分析(simple slope analysis)である。この手法は、経営学や組織行動論などにおいては頻出の分析であるとい…

どうすれば実践に役立つ論文を書くことができるか

経営学は学問である。よって、経営学の研究および論文には、理論的貢献や厳密な方法論が求められることは言うまでもない。同時に、経営学は応用学問であるから、経営の実践に対して役立てることも念頭に置かなければならない。経営学の学術論文は、同業者に…

媒介分析(mediation analysis)の間違った理解

経営学や組織行動研究で、媒介関係(mediation)を伴うモデルや仮説は頻出である。媒介仮説とは、独立変数 X が、従属変数 Y に与える影響を、M が媒介するというもので、X → M → Y という因果関係を想定するものである。調整関係(moderation)と組み合わせた調…

重回帰分析における相対的重みづけ分析(relative weight analysis)の直感的理解

経営学や組織行動などの研究で最も頻繁に使われる統計分析の1つが、重回帰分析である。重回帰分析では1つの目的変数を複数の説明変数で予測しようとする。この重回帰分析の際にしばしば生じる研究上の関心は、複数の予測変数の相対的な重要度(relative impo…

マネジメントジャーナルが掲載する論文にはどのような貢献が求められるのか

経営学(マネジメント分野)は、心理学や経済学などと比べると、より学際的な要素の強くかつ実践的な貢献も求められる学問分野である。また、Academy of Management Journal (AMJ) のような総合的なマネジメントジャーナルは、Strategic Management, Organiz…

経営学研究でどのように実践へのインパクトを生み出せばよいのか

経営学は応用的学問でもあるため、研究するにあたっては当然のことながら、この研究がどのようにして経営の実践に影響を与えることができるのかを考えざるを得ない。そして、実践へのインパクトに関する、実務家からの批判も、経営学内部からの自己批判もあ…

マルチレベル分析で説明変数を中心化する際のポイント

マルチレベル分析を実際に行うときによく出てくる疑問として、説明変数を中心化(センタリング)すべきかどうかというのがある。とりわけ、マルチレベル分析では、説明変数を集団内での平均値を用いて中心化する方法(集団平均中心化:group-mean centering)…

学際的理論構築の作法

経営学は基本的に学際的な学問である。経営学という独自の方法論が存在するわけではなく、経済学、心理学、社会学、人類学、政治学などから関連する概念や理論、方法論を借用することで、経営にまつわる現象の理解を志向してきたのである。よって、理論構築…

構造方程式モデリング(SEM)においてアイテムの小包化(parceling)をするべきか

構造方程式モデリングあるいは共分散構造分析は、経営学をはじめとする社会科学で頻繁に用いられる統計分析手法である。構造方程式モデリングを用いる利点の1つは、研究の対象となっている構成概念(実際は測定できない抽象的な概念であるが、なんらかの測…

時間は未来から過去に流れる

多くの人は、時間は過去から現在へ、そして未来へと流れるというように考えるのではないだろうか。しかし、主に認知言語学的視点から時間を考察する瀬戸(2017)によると、このイメージは錯覚である可能性が高い。むしろ、様々な認知言語学的証拠によって、わ…

ブートストラップ法の直感的理解

経営学においても近年よく用いられる統計手法として、ブートストラップ法(bootstrap method)というのがある。これは、リサンプリング(再抽出)という統計手法の1つで、似たようなものに、ジャックナイフ法というのもある。ブートストラップ法とは、何をね…

内生性、内生変数とは何か

経営学のみならず、経済学その他の研究におけるデータ分析で起こりうる問題としてよく指摘されるのが「内生性(endogeneity)」とか「内生変数(endogeneous variable)」である。しかし、この概念は英単語としても難しいし、何を意味しているのか分かりにくい。…

『職業としての小説家』から考える職業としての研究者

村上(2015)は、自分自身が「あまりにも個人的な考え方をする人間」であり、「ある意味では身勝手で個人的な文章」と断りをいれつつも、誰のために、どのように、そしてなぜ小説を書くのかなどについての自伝的エッセイを披露している。村上の「職業としての…

赤池情報量基準(AIC)とは何か

経営学をはじめとする学術研究のうち数量的研究では、検証したい理論や仮説を数量的にモデル化し、収集したデータを用いた統計分析を実施することで妥当性を検証する。その際、個々の仮説、例えば個別の変数間の関係を検証するのみならず、構築したモデル全…

統計分析において誤差分布が極めて重要な理由

経営学をはじめとする学術研究のうち数量的研究では、検証したい理論や仮説を数量的にモデル化し、収集したデータを用いた統計分析を実施することで妥当性を検証する。統計分析について、一見するとあまり脚光を浴びていないように思えるが実は極めて重要な…

グラウンデッド・セオリー・アプローチを支える3つのパースペクティブ

グラウンデッド・セオリー・アプローチとは、質的研究の1つで、リアルな世界に立脚した形で理論を構築したり理論を精緻化するための方法論である。リアルな世界の現象をとらえた具体的な質的・量的データから出発し、データを分析することで、新たなアイデ…

優れた理論とは何か

経営学に限らず、学問の世界では、優れた理論の構築が目的とされる。優れた理論は、人々の世界観や思考・実践のあり方を変え、世界を変える力を持っている。では、優れた理論の条件とは何だろうか。Gligor, Esmark, & Gölgeci (2016)は、先行文献をまとめつ…

数量的研究の論文を査読する際のチェックリスト

研究者であれば、同分野の雑誌に投稿された論文を査読する機会が増えてくる。投稿論文の査読は、投稿された論文の内容を、科学的厳密性、妥当性の観点から批判的に評価することである。批判的評価といっても、当然分野によってその判断基準が異なってくるこ…

京都大学国際高等教育院 外国文献研究 推薦図書リストの紹介

京都大学国際高等教育院 外国文献研究 推薦図書リストの紹介 この授業は、主に大学2年生向けに、英語で書かれたビジネス分野の入門テキストを用いて英語文献を読みこなす能力とビジネスに関する知識の両方を獲得することを目的とした授業です。毎回の授業で…

なぜ分散分析で平方和や平均平方という用語が使われるのか

分散分析について初めて勉強するとおそらく混乱すると思われる言葉が、平方和や平均平方である。分散分析なのだから分散という言葉を用いて説明してほしいのに、平方和とか平均平方がでてきて混乱するのである。平方和については、偏差平方和とか、残差平方…

「人間万事塞翁が馬」に学ぶ中国思想

中国のことわざに「人間(じんかん)万事塞翁が馬」というものがある。金谷(1993)によれば、これは『淮南子』に出てくる「塞翁が馬」から来ている。国境の砦のほとりにひとりの老人がおり、ある時飼っていた馬が逃げてしまった。人々がおくやみをいうと、「…

正規分布の解剖学

統計学の中でももっとも重要な概念といってもよいのが、正規分布である。正規分布は、世の中の本質を表しているといってもよい概念でありながら、式を見ると複雑でかつミステリアスである。実際に、正規分布の式は、分布の平均をμ、分散をσ^2とすると以下の…

モンティ・ホール問題の直感解(2分の1)は本当に間違っているのか

モンティ・ホール問題とは、条件付き確率を論じる際に頻出の問題で、確率論的に正しいことと人間の直感とが一致しないことの例としてよく話題になる。問題の内容は以下のとおりである。 「プレーヤーの前に閉まった3つのドアがあって、1つのドアの後ろには景…

信頼区間と確信区間はどう違うのか

統計学では、母集団からサンプルを採取し、そのサンプルの情報から、ある値を推定する。その際、推定した値の信頼区間(confidence interval)や確信区間(credibility interval)を構築する。信頼区間と確信区間は、紛らわしいが似て非なるものである。豊田(201…