学術論文の考察(Discussion)の書き方

学術論文を執筆する際、冒頭(Introduction)、理論や仮説、方法と結果までに力を尽くし、それらが完成すればおおよそは論文は完成に近いと思うかもしれない。そして、考察(Discussion)は、論文の「おまけ」のように思うかもしれない。しかし実は、優れた考察を書くのは意外と難しい。よって、考察の執筆についても時間をかけ、じっくりと取り組む必要がある。いちばん良くない考察は、結果をなぞっているような記述に終始しているものである。学術論文で報告した結果を繰り返し述べているだけでは、スペースを無駄に消費しているだけでなんら付加価値をもたらさない。では、どのようにして考察を執筆すればよいのだろうか。


まず、考察(Discussion)はいくつかのサブパーツからなる。通常、考察の冒頭では、本論文の当初の目的を再確認したうえで、分析結果を簡単に要約する。結果の部分が詳細かつ複雑である場合、考察の冒頭でいったん結果をまとめることでポイントをおさえるわけである。その後、理論的貢献(Theoretical contributions)、実践的含意(Practical implications)、研究の限界・短所(Limitations)、将来研究の方向性(Directions for future research)、結語(Conclusion)という感じでサブパーツが続く、これらをすべてサブパーツとして記述する場合や、どれかをくっつけて1つにする場合など、スタイルは様々であるが、おおよそこれらのサブパーツの内容が考察に含まれるわけである。


では、それぞれについて見てみよう。まず、考察の冒頭の結果のサマリーであるが、冒頭で述べたように、結果を単に繰り返すだけだと情報的な価値がないので、結果をまとめる際に、より本質的なポイントを述べるとか、表面的な結果の背後にある理論や発見を説明するなど、読者が結果の大枠を理解しやすくなるような工夫が必要である。とりわけ、本論文の主たる価値ないしは貢献部分でもある、もっとも重要な発見を強調することが大切である。結果について、論文の理論や仮説で論じたことに即しつつ、かみ砕いて説明するという姿勢が必要であろう。


次に、理論的貢献についてであるが、こちらも表面的な結果ではなく、その結果の背後にあるプロセスや理論にどのような意味があるのか、とりわけ、論文の最初のほうで述べた研究目的のうち、理論の発展や修正などにどう貢献しているのかを述べる必要がある。この部分は、論文のトピックについてこれまで交わされてきた理論的対話に本研究がどのように参加しているのかにもかかわってくる。本論文を読んだ研究者が、当該トピックで用いられている理論やこれまでの研究成果について思いを馳せ、深く思考し、新たな気付きや将来研究に向けた展望が描けるようなものが望ましいだろう。


理論的貢献が抽象度の高い議論に焦点を絞るのに対し、実践的含意については、より具体的な視点から、実務家がこの研究成果をどう実践に生かすことができるのかを議論する必要がある。とりわけ、研究結果に基づき、実務家が何をするべきかについて実践ガイダンスのようなものが含まれるとよいであろう。抽象的な記述ではなく、具体的に何をすべきかという書き方がよいであろう。研究成果が実践に以下われることで、実践への貢献が可能になるのであるから、どのように生かすのかを示唆するわけである。


将来研究の方向性については、この学術論文を読んだ研究者が、それを受けて自分自身で研究プロポーザルを書けるような内容を提示すべきである。そうすることで、ここに書かれてある方向性が実際に研究の形で実現することが望ましい。