査読論文投稿後の最初の関門「首尾一貫テスト」

Hodgkinson (2016) によれば、査読ジャーナルのエディターや経験豊富な査読者は、たった数分で、投稿論文が掲載されるポテンシャルを有しているのかを判断するためのテスト方法を知っている。投稿された論文がこれを通過できなければ、投稿論文や査読に回されることなくエディターから掲載不可の決定(デスク・リジェクト)を通告されるか、査読に回されても掲載不可の結果になる可能性が高い。そのテスト方法は、「首尾一貫テスト」と呼ばれている。


この首尾一貫テストとは、論文が冒頭で示した「意図する学術的貢献」が、最終ページの結論に至る論文全体を通じて首尾一貫して示されているかどうかを確認する方法である。手順は簡単で、まず、要約と冒頭の数行、数段落を読んで、この論文の意図する学術的貢献がクリアに示されているかどうかを判断する。次に、論文の考察や結論部分に目を移し、その冒頭の数行もしくは数段落を読んで、論文の冒頭で約束した「意図する学術的貢献」が、再確認された後、具体的な学術的貢献として論じられているかをチェックする。その貢献に実証部分が含まれていれば、実証分析の部分に目を移して、その妥当性をラフに確認する。


エディターや査読者は、数分で上記のプロセスを通じて論文の全体像を把握し、論文の冒頭で意図する学術的貢献がクリアに示されていない場合や、示されていたとしても考察や結論で約束した貢献が果たされていない場合のように、論文全体に首尾一貫した学術的貢献がクリアに分からない場合には、この論文の掲載可能性は低いと判断するわけである。


Hodgkinsonは、雑誌投稿後の首尾一貫テストに通過するためにも、さらにいえば、最終的に論文を掲載させるために決定的かつ最も重要なことが、論文の冒頭の数行で、この論文が意図する学術的貢献をクリアに示すことだという。これは、論文の冒頭で「読者の心をつかむ」ために絶対に必要なことであることを示唆するのである。言い換えるならば、いかに論文の出だしで、ターゲットとする読者に対して説得力のあるかたちでこの論文の価値をわかってもらえるように語りかける(対話する)か、ということに尽きるというわけである。


これは、学術のグローバル化に伴って世界中から定評のある国際査読付きジャーナルへの論文投稿数が飛躍的に増加していることを考えれば至極納得のいくポイントである。エディターにとって、投稿論文を「さばく」プレッシャーは格段に上がっており、短時間で論文の巧拙を判断しなければならない。査読候補者も限られているため、芽のない論文は査読に回さず即座に掲載不可として差し戻す必要がある。査読者も多忙な中で貴重な時間を割いて論文を査読するため、同様に、素早くこの論文の巧拙を判断しなくてはならない。よって、論文の冒頭で一番大切なことが語られていなかったら、第一印象として、それでアウトなのである。第一印象で判断されるのはアンフェアだと言われるかもしれないが、それが現実なのである。いくら研究内容が「ダイヤの原石」であっても、それがすぐに目に留まるように細心の注意をもって加工されていなければ、単なる石ころと判断されてしまうということなのである。


まとめ:学術論文で最も重要な3つの箇所

  • 要約
  • 論文の最初の段落
  • 結論部分

文献

Hodgkinson, G. P. (2016). Publishing at the interfaces of psychology and strategic management. In T. Clark, M. Wright,& D. Ketchen (Eds.). How to get published in the best management journals (pp. 275-286), Edward Elgar Publishing.