波乗りの戦略思考

田坂(2014)は、世の中の変化が急激かつ非連続になり、企業や組織をめぐる環境が予測不能な形でめまぐるしく変化する時代に必要なのは「波乗りの戦略思考」だと説く。これは、あたかもサーフィンで波に乗るときのように、刻々変化する波の形を瞬時に体で感じ取り、瞬間的に体制を切り替え、その波に上手に乗りつつ、目的の方向に向かっていくという戦略思考だと説明する。


そして、この「波乗りの戦略思考」に必要なのが「戦略的反射神経」だと田坂はいう。これは、ある経営環境において策定された「戦略」というものを、その経営環境の刻々の変化を感じ取り、その変化に応じて、瞬時に修正していく能力だという。あえていえば「直感的感覚」の能力であり、「アート」としての戦略を支えるものである。


さらに、波乗りの戦略思考を実行するためには、企業理念や事業目標と並んで、「これから何が起こるのか」についての「客観的思考」が必要であることを田坂は示唆する。企業や市場や社会が「これからどのような方向に変化しようとしているのか」を洞察し、「予見」できたならば、その変化を「追い風」とする「戦略」を考えることができたり、卓抜な戦略によって、その変化を「良き方向」に導いていくこともできるからである。


ただし、この「未来を予見する」ということは、具体的な変化を「予測する」ことではないと田坂はいう。我々は、未来の「具体的変化」を「予測」することはできないが、未来の「大局的変化」を「予見」することはできるということである。人類が過去数千年の歴史の中で生み出した数々の数学や哲学には、我々の生きるこの世界が、森羅万象が、どのように変化・発展し、進歩・進化していくのかの「法則」を述べたものがある。それを学んで、将来を「予見」する。これを「大局観」というのである。


戦略のみならず、戦術に関する知性も必要だと田坂は説く。「戦略」を立てたならば、直ちに「戦術」のレベルに具体化する、すなわち「詳細な行動計画」にしていく必要があるからである。そこで必要なのが、「想像力」と「反省力」だと田坂はいう。想像力とは、未来に起こる出来事の展開を具体的に想像し、そこから最善策を選ぶ力であり、反省力とは、過去に起こった出来事の経緯を子細に追体験し、そこから改善策を学ぶ力のことである。戦術レベルの知性とは、この2つの知性が「車の両輪」となって働くものなのだというのである。