論文作成で日本人が習得すべき「アンパッキング」と「理由warrant」の技法

吉岡(2015)は、「シカゴ・スタイル」という世界標準の論文作法に基づいた文章上達術を説いているが、その中で、日本人や初心者が苦手なものとして「アンパッキング」と「説明(warrant)」を紹介している。


アンパッキングとは、自分がいったん述べた内容を、できるだけ長く展開して、自分の言いたいことを余すところなく読者に伝えようとする方法である。どこまで展開できるかで、文章の評価も異なってくると吉岡はいう。自分が述べた内容を列挙するような「ピーコック(孔雀)型」では、書く内容は増えるが、1つ1つの説明が薄くなって読者を納得させるのが難しいという。一方、アンパッキングは、最初に述べたことを次々に展開して論じていくため、「スネーク(蛇)型」の文章だといえる。吉岡は、日本人の書き手はアンパッキングが少ないと指摘する。


具体的に言うと、短い文章であっても、なるべく遠くまで展開できるように、最初の段階では、話題を意識的に狭めておく。そして、意識的に狭めたかたちで最初に述べたアイデアや概念について、その言葉に含まれていた意味を余すところなく、目の前に繰り広げていくわけである。狭めることで深みを出す。また、最初は言いたいことを抽象的かつ短めに語っておいて、そこから、その内容を詳しく展開(アンパック)していくわけである。そうすると、その文章の主題となる言葉が、同義語や類義語に形を変えて、何度も繰り返されて出現することになる。文章をたどっていくと、ギターの弦のように同義語・類義語が張られていることから、これをthematic stringsというのだと吉岡は解説する。


また、吉岡は、読者を納得させるには根拠の充実が必要で、基本的な根拠は、理由・説明・例示(データ)の3つだというが、その中でも初心者は、理由(reason)の次にくる説明(warrant)が苦手だと指摘する。通常は、理由で大雑把に考え方を示し、説明でくわしく言い換えるのである。つまり、説明とは、理由をくわしく分かりやすく言い換えることである。理由を述べただけで、説明としてのwarrantがしっかりなされていないと、十分思考や吟味が行われていないという印象を持たれる場合が多いというのである。理由を述べたあとで、その理由の含有する内容をずっと先まで追いかけるのである。そうすることで、常識的でステレオタイプの思考から、先に進むことができると吉岡は説く。


吉岡によれば、説明によって理由を言い換える作業は、論理的必然の連鎖である。論理展開を最後まで追いかけて根源的な主張にするのが望ましいのである。ただし、異なる説明をすれば、議論の進行も決定的に異なっていくことも吉岡は指摘する。その際、「わかりやすさ」や「面白さ」という要素がその説明を評価する際の判断基準となるが、わかりやすくても、それが新しい発見や解釈につながらず、思考を刺激しない場合には、つまらないと思われてしまう。よって吉岡は、説明には「わかりやすさ」よりも「面白さ」という基準のほうが大事なのだと主張する。