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因果複雑性の経営学(6)組織行動分野の研究紹介(JD-Rモデル)

以下、本シリーズでは因果複雑性の経営学の原理に従った研究を紹介していく。今回は、組織行動論の中でも、近年とくに注目を浴びているジョブ・デマンドーリソースモデル(Job demands-resources [JD-R] model)を因果複雑性を前提とする構成論アプローチによ…

因果複雑性の経営学(5):方程式思考と集合論思考

因果複雑性を考慮した経営学の中間的なおさらいとして、従来の経営学の思考を支配してきた方程式思考と、複雑性の経済学の根幹をなす集合論思考を改めて比較してみよう。まず、方程式思考であるが、こちらは以下のような式で表される思考様式である。 Y = a …

因果複雑性の経営学(4):理論構築のプロセス

因果複雑性の経営学は、旧来の方程式的あるいは線形代数的な理論構築を主とする経営学と因果関係の考え方など根本的な思想が異なるので、因果複雑性の経営学を発展させるための理論構築の方法も、旧来の線形代数的な相関関係をベースとなる理論構築の方法と…

因果複雑性の経営学(3):理論を支える数学的思考法

経営学にとって、より現実にフィットした因果複雑性を考慮した経営理論が未発達であった大きな理由が、研究者の方程式的思考、線形代数に依拠する論理構造に支配されていたことを指摘してきた。数学は、人類が有する学問のなかでも究極的に厳密な論理演算を…

因果複雑性の経営学(2):構成論アプローチのエッセンス

今回は、因果複雑性の経営学の根幹をなす構成論アプローチのエッセンスを解説する。前回書いたように、還元主義、線形性、対称性、純効果主義といった方程式的というか線形代数的な発想に支配された形で構築された従来の経営理論ではなく、経営現象における…

因果複雑性の経営学(1):従来の経営理論が有する欠陥

経営学が対象とする経営現象は、複雑である。例えば、企業業績は、様々な要素の組み合わせによって生じるもので、業績に影響を与える1つの決定的な要素があるわけではない。しかし、従来の経営学は、このような複雑性を考慮した理論を構築することができな…

3Eフレームワークで理論の完成度を採点する

経営学では、次々と新しい理論が登場する。ただ、重要なのは、それらの新しい理論が本当に優れているかどうかを瞬時に判断するのは難しいということである。とりわけ、多くの理論が、Academy of Management Reviewなどのトップジャーナルから生まれているた…

人類社会に強いインパクトをもたらす経営学研究とは

経営学は応用学問であるため、経営学研究が社会に対して強いインパクトをもたらすことも期待されている。経営学だから企業経営の特定の分野・機能や企業業績の向上に役立てばよいというわけではなく、研究成果が幅広く人類社会の発展に貢献できるのであれば…

「データを拷問にかけ自白させる」「セレンディピティ主義」の危険性

フランシス・ベーコンが言ったとされる有名な言葉に、実験とは「自然を拷問にかけて自白させること」だというものがある。自然科学は経験データとの整合性が必須なので、特定の法則性が自然に備わっているならば、その自然が自分でそれを語らざるをえない状…

「系統樹思考」とは何か

この世の森羅万象をいかに体系化し、理解するかは人類共通の課題といってよいだろう。私たちが、多様なものを整理し、知識として体系づけようするのは自然な行動である。これに関して、三中(2006)は、生物学における進化思考をより一般化し発展させた「系統…

捨てることで論文は強くなる

論文を作成する際に犯しがちな誤りは、色々な要素を盛り込むと論文のクオリティが向上するという思い込みである。この思いは、理解できなくはない。例えば、データを分析した結果、これも面白い、あれも面白い、というようにたくさんの発見が得られるかもし…

論文のオープンアクセス化という新しいビジネスモデル

学術界では、自分が活動する研究分野のいわゆるトップジャーナルに研究成果を論文として掲載されることを最優先の目標として設定することが多い。なぜならば、トップジャーナルは、その研究分野において最も高水準な論文を、厳しい審査を通して選びすぐった…

「平均への回帰」は因果関係とは異なる

背の高い親の子供の身長は親よりも低くなる傾向がある、1年目に好成績をあげたプロスポーツの新人は、2年目に振るわないことが多い(2年目のジンクス)といった現象がよく見られ、これを「平均への回帰」という概念で説明することが多い。平均への回帰と…

経営学の「博士課程」が実務家や研究者に果たす役割とは何か

経営の実務家にとっては、経営学修士号(MBA)は知名度が高いが、経営学の博士号にはあまり価値を見出さないかもしれない。一般的には、博士課程は研究者養成コースである。しかし、経営学のような応用学問では、博士課程は、研究者にとっても、実務家にとって…

思考実験とは何か2

榛葉(2022)によれば、人類は、思考実験を通して、未知なるものが何者なのか、見当をつけてきた。そうやってとりあえず歩き始めてみて、その方向に疑問を呈したり、逆にその疑問に対して反論したりする時にも、思考実験が繰り返されてきた。そのようにして人…

思考実験とは何か1

科学的知識のような確かな知識を手に入れるためには実験は欠かせない方法の1つである。しかし、いつでもどこでも実験ができるとは限らない。実験をするのに非常にコストがかかる場合もあれば、そもそも実験をすることが現実的に不可能だと思われるケースも…

学術論文とは何か、どう書けばよいのか

小熊(2022)は、できるだけどの分野にも汎用性のある「論文の書き方」を解説しており、そもそも論文とは何かという点から丁寧に説明を始めている。小熊によれば、論文とは「相手を説得する技法」から発達したものである。その際、説得力を高めるために、「ど…

質的比較分析(QCA)の直感的理解

近年、経営学の分野で、質的比較分析(QCA)を用いた研究が徐々に増えている。しかし、それらの研究で行われている分析がそもそも何をやっているのか、そしてなぜ「質的比較分析」というのか、直感的には分かりにくい。質的研究と言っても、集合論やブール代数…

経営学における因果複雑性と質的比較分析(QCA, fsQCA)

田村(2015)によれば、経営学の主たる目的は経営事象にまつわる因果関係の解明であるが、経営学で明らかにしたいような法則性というのは、自然法則のような普遍法則ではない。まず、対象となる因果関係が該当する場所と時間の制約があり、その妥当性も短時間…

固定効果と変量効果の直感的理解

経営学や組織行動論を始め、近年の社会科学では、デジタル化の影響もあって大量のデータがとりやすくなってきた。さらに、1人から複数時点でのデータを取得することも昔よりも容易になってきた。そこで、同じ変数を個人とか企業(個体)から時間をおいて何…

エージェントベースモデルで学ぶ「鳥の群れ型リーダーシップ」

組織は精密機械のごとく厳密に設計されて運用されるという側面もないわけではないが、個々のメンバーがある程度の自由度をもって活動する中でも、同僚と何らかの相互作用を行うことで、組織全体として秩序あるパターンが生まれてくる(創発する)側面を強く…

組織行動のコンピュータ実験室(NetLogo Web版)

Party Flocking Flocking 2 Segregation Ethnocentrism Altruism NetLogo Web

組織行動のコンピュータ実験室(MASコミュニティ版)

組織文化・流行伝播 チーム・協力 社会ネットワーク その他 Artisoc cloud MASコミュニティ https://artisoc-cloud.kke.co.jp/models/92uUWGhVSLyQaAZiLy2kRA mas.kke.co.jp

組織行動のコンピュータ実験室

組織のゴミ箱モデル 組織構造と組織行動 チーム・集団力学 組織学習 組織文化、組織内浸透 オープン・ライブラリー www.comses.net

経営学における「必要条件分析(necessary condition analysis)」の重要性

経営学においては、あるいは経営学のみならずさまざまな学問分野において、因果関係を論じることは理論構築の本質的作業である。しかし、気を付けなければならないのは、因果関係を論じる際に、「必要条件」と「十分条件」そして「必要十分条件」の違いを明…

「対話」としての学術論文

個別の研究課題は、学術論文として学術雑誌に掲載された時点でいったん終了する。とはいっても、学術雑誌に掲載させるまでの道のりは平たんではなく、投稿先雑誌の選定から投稿、改訂のうえ再査読などを経て掲載決定に至るが、とりわけ影響力が大きいトップ…

統計学の認識論:ベイズ主義と頻度主義

大塚(2020)は、統計的手法とは特定の科学的仮説をデータから正当化するための認識論的装置であるという視点に立ち、帰納推論によって真実に近づこうとする統計学が、いかなる形でそれによって得られる信念を知識として正当化できるのかを、ベイズ主義と頻度…

統計学はどのように世界を理解しようとするのか

大塚(2020)によれば、統計学、とりわけ推測統計は、「帰納論理」「帰納推論」を通して世界を理解しようとする学問であり、統計学自身が、一定の存在論的前提に立つ科学認識論でもある。 一般的に、与えられた経験、観測、データをもとにして、まだ観測されて…

ベイズ主義、尤度主義、頻度主義の関係性

科学は、数学のように論理のみで閉じた世界ではなく、理論や仮説を常に経験(証拠)と照らし合わせることで発展する。観測から得られる経験や証拠には確率的要素を排除できないため、科学的方法の根幹を支えるのが、統計的推論であるといえる。研究の過程で…

経営学における「探求する精神」:基礎科学から何を学べるか

経営学は応用的な学問分野であるため、「経営学は実務の役に立つのか」というのは常につきまとう問いである。実務の役に立つ経営学研究はどのようにすれば可能なのかという問いに置き換えてもよいだろう。今回は、この問いに答えるために、大栗(2021)が基礎…