このシリーズでは、本シリーズの演習問題としてHu et al. (2024)の論文を取り上げ、事前に演習問題を提示し、解説を行っている。前回は、Hu et al. (2024)が行った実証調査に関する問題を解説した。今回は、考察部分に関する演習問題について解説する。
7)Hu et al. (2024)が行った研究の結果、新たな発見はどのように実践に役立つか、実践的示唆は何か
AMJのようなトップジャーナルに掲載される論文の特徴は、論文を読む前と読んだ後で、研究対象についての理論的理解を大きく変えると同時に、それによって、研究対象に関する実践の指針も大きく変える。Hu et al. (2024)の研究で言えば、この研究によって得られるユーモアについて理解の一番大きな変化かつ実践的な貢献は、これまで着目されてこなかったユーモアの「量」のネガティブな効果に気づくところにある。そうすることにより、リーダーは、ユーモアの「量」に気をつけることが大事であるというこれまでは見過ごされがちであった実践的示唆が得られる。
具体的にいうと、本研究の結果から、リーダーは、できるだけ少ない頻度で、かつクオリティの高いユーモアを発することが部下をマネジメントする上で望ましいという結論に達する。この「できるだけ少ない頻度で」というのが本研究によって得られる新たな気づきである。ユーモラスで人を楽しませることが好きなリーダーは、ついついユーモアを頻発してしまう。それで部下が喜んでいると思ってしまうとサービス精神旺盛がゆえにさらにその頻度に拍車がかかる。しかし、部下が喜んでいるように見えても、とりわけ上司との上限関係を意識している部下の場合、実は、付き合いで笑っているために精神的負担を感じているかもしれないのだということに本研究を知ることで気づくことができるのである。
補足質問5)Hu et al. (2024)の考察部分の構造はどうなっているか
Leslie et al. (2023)の時と同様に、Hu et al. (2024)でも、それぞれの調査結果の後に短い考察をつけているので、総合考察という形でこの研究全体の考察を始めている。そして、これもLeslie et al. (2023)の時と同様に、考察の冒頭で、本研究の主たる発見を非常に簡潔かつ的確に表現している。具体的には、「リーダーがユーモアを表現する頻度は、部下の表層的な感情表現を増加させ、それによって間接的に部下の精神的疲労を増加させ満足度を低下させる。そして、このプロセスは上司との権力格差が大きいと感じている部下ほど顕著である」と記載している。
その後、理論的含意、実践的含意、長所・限界・将来研究と進むので、考察としてはある程度型にはまった構造であると言える。本編でも解説したように、序論の最後の段落で、本研究の貢献について簡単に記述しているので、考察の内容がそれと対応していることは必要不可欠である。具体的には、序論で3つの貢献(既存のユーモアの考え方に一石を投じる、ユーモアの量と質を区別することの重要性を示す、リーダーがユーモアを用いることのリスクを提示する)を簡潔に記載している。そして考察の理論的含意のところでこの3つの貢献について敷衍した形で説明している。
実践的含意は1段落のみと短いが、理論的含意のところで、実践的な示唆も含んだ議論を展開しているので、それを考慮するならば妥当だといえよう。一方、長所・限界・将来研究については比較的多くのスペースを消費している。そして最後に結語で論文を締め括っている。
文献(教材)
Hu, X., Parke, M. R., Peterson, R. S., & Simon, G. M. (2024). Faking it with the boss’s jokes? Leader humor quantity, follower surface acting, and power distance. Academy of Management Journal, https://doi.org/10.5465/amj.2022.0195