対数正規分布が世の中の主要な統計分布である理由

松下(2019)によると、世界の物事のほとんどは、統計的に分布をとると、正規分布、べき乗分布、対数正規分布の3種類のどれかに近い形になる。正規分布は左右対称の釣り鐘型の頻度分布であり、べき乗分布は右肩下がりで頻度が同じ割合で減少し続ける代表的な値のない(スケールフリーな)頻度分布である。そして興味深いのが対数正規分布である。これは、分布の左側側は正規分布に似ているが、右側はべき乗分布に似ている。よって、この3つの分布は、論理的にも数学的にも関連しており、自然現象、社会現象のメカニズムからも説明が可能であるように思われる。


ユニークな形をしている対数正規分布に関していえば、松下は「複雑系のデフォルト分布は対数正規分布」であると説明する。つまり、この世界の大部分が、複雑な現象すなわち複雑系の様相を示していることから、いろいろな自然現象、社会現象の分布をとると対数正規分布になることが想定されるのだが、対数正規分布から外れる場合には、その派生形として正規分布もしくはべき乗分布に近づくと考えられるのである。では、どのようなメカニズムで、複雑な現象が対数正規分布に従うのだろうか。


松下によれば、対数正規分布は「複雑系正規分布」といえるので、単純な系の振る舞いを記述する正規分布の理解が出発点となる。実は、正規分布が出現するメカニズムは、いろいろなモノゴトが加算的(足し算的)に積み重なる「加算過程」と、統計学の最も重要な法則・定理である大数の法則中心極限定理によって説明することができる。つまり、世の中が偶然性すなわちサイコロ投げのような現象で成り立っているとすれば、サイコロ投げが何度もなされて単純に積み重なっていくことで、頻度分布が正規分布になっていくのは数学的にも証明されているのである。


そして、対数正規分布は、横軸が対数変換された目盛で描いた正規分布にすぎない。対数目盛をもとに戻せば対数正規分布になるというわけだ。そして、それは複雑な現象において出現しやすい分布である。なぜそうなるかというと、単純な系を想定している正規分布が「加算過程」によって生じるのとは異なり、複雑な系を想定している対数正規分布は「乗算過程」によって生じるからだと松下はいう。つまり、サイコロ投げような偶然性が単に加算されていくのではなく、世界の多くの物事は相互依存的すなわちお互いに影響を及ぼしあっているために、非線形的もしくは乗算的に積み重なっていくのである。


別の言い方をすれば、世界でモノゴトが移り変わるとき、サイコロを繰り返し投げるように、今日の出来事はゼロクリアされた状態で明日もう一度サイコロ投げが行われる(加算過程)のではなく、今日投げたサイコロは明日のサイコロ投げの起点となる(乗算過程)ように、歴史は積み重なっていく。このように、統計性を生み出す原因が乗算過程であれば、生じる結果はいろいろな要因の掛け算で表されるが、「指数関数と対数関数」の非常に便利な特徴(掛け算的な表現を足し算的な表現に変換できる)を応用すれば、対数をとることで統計性を生み出すばらつきの原因を足し算としてとらえることが可能となり、加算過程とみなすことができるのである。


よって、大数の法則中心極限定理といった統計学基本法則・定理をそのまま用いて、乗算過程を加算過程に変えるだけであれば、そのまま正規分布が導き出させるメカニズムを複雑な系で生じる分布に応用することができる。つまり、出現する値が乗法的に大きくなっていくことを考慮し、目盛を対数変換することで加算過程に直して正規分布を導けばよいのである。後は、目盛をもとに戻してやれば対数正規分布となるわけである。


まとめると、世界の現象の多くは、伝統的な基礎物理学が対象としてきたような単純な系でなく、複数の要素がお互いに影響を及ぼしあう複雑な系であり、かつ、時間の経過につれて成長したり場合によっては退化したりする現象でもある。このような現象の時に顔を出しやすいのが対数正規分布なのであり、対数正規分布は世の中の主要な統計分布である可能性が高いと松下は論じるのである。

単純傾斜分析(simple slope analysis)の直感的理解

独立変数間の交互作用を含む重回帰分析において、交互作用が有意になった場合に、その交互作用の特徴を理解するために行われる分析の一つが、単純傾斜分析(simple slope analysis)である。この手法は、経営学や組織行動論などにおいては頻出の分析であるといってよい。しかし、初心者が実際にデータを分析して論文を執筆しようとするときに意外と苦戦する分析でもある。分析の仕方がわからない、もしくは、分析のロジックがわからない、というのが多くの理由である。そこで、今回は、単純傾斜分析のロジックと分析方法を直感的に理解してみることにしよう。


まず、単純傾斜分析とは何かについて説明しよう。経営学や組織行動論などの研究で交互作用を含む重回帰分析を行う目的の多くが、独立変数と従属変数の関係を変化させる「調整変数」の効果を検定したいというものである。例えば、個人の性格が職務行動に影響を与えているのか、あるいはその度合いについて、その関係は常に一定であるわけではないと思われる。職場のルールが厳格であるときには、どんな性格であるかにかかわらず、決まった行動をすることが求められるので、本人の性格が職務行動に与える影響は弱いと予測される。しかし、職場のルールがあまりない場合、どんな行動をするのかは本人に任されているため、本人の性格が職務行動に与える影響は強いと考えられる。この例では、職場のルールの度合いが、個人の性格と職務行動との関係を調整する調整変数ということになる。


独立変数と調整変数を含む重回帰分析で交互作用が有意になった場合、確認すべきは、その交互作用がどのようなパターンを示しているのか、そしてそれが、予測や仮説と整合的であるかどうかということである。直感的にわかりやすいのは、ある調整変数の値を用いてグラフ化することである。例えば、調整変数が、その平均よりも1標準偏差高い場合に、独立変数と従属変数の関係はどうなのか、一方、調整変数が、その平均よりも1標準偏差低い場合に、独立変数と従属変数の関係はどうなのか。この2つを同じグラフ上に表して比べてみれば、調整変数の高低によって独立変数と従属変数の関係が変わることを視覚的に確認することができる。


単純傾斜分析(simple slope analysis)は、このような交互作用のパターンをさらに深く理解するための分析である。単純傾斜(simple slope)という言葉が示す通り、回帰直線の傾きを統計的に検定する手法であって、一言でいうと、「調整変数がある特定の値をとったときに、独立変数が従属変数に与える影響(単回帰分析の傾き:回帰係数)が統計的に有意かどうか」を検定することである。慣例としては、調整変数が連続変数のとき、平均+1標準偏差の値をとる場合と、平均ー1標準偏差の値をとる場合の2パターンを、もしくは、それに、調整変数が平均値であるときを加えた3パターンについて単純傾斜の検定を行うケースが多いが、必ずそうしないといけないというわけではない。原理的には、調整変数をどの値に設定してもよい。


では、単純傾斜分析をどのような手順で行えばよいのだろうか。もっとも単純な交互作用付きの重回帰式として、y = a + b1x + b2w + b3xw というものを考えてみよう。yは従属変数、aは切片、xは独立変数、wは調整変数、そして、b1~b3が偏回帰係数である。ポイントとしては、独立変数と従属変数のみで構成される単回帰式と比べると、wとxw (xとwの積)の項が回帰式に加わっているところである。この式を x の視点からあたかもwを含む項が定数であるかのように考えて変形すると、y = (a + b2w) + (b1 + b3w) x となる。つまり、yとxの関係について、切片が(a + b2w)で、傾きが(b1 + b3w)であると解釈することができる。ただし、切片にも傾きにも変数wが含まれているので、wの値によって切片の値も傾きの値も変化するということである。


上記の式でいうと、分析の結果b3が統計的に有意である場合、wの係数がゼロではないので交互作用がある(調整効果が存在する)ことが示唆されるので、単純傾斜分析で求めたいのは、wが特定の値(例えば平均+1標準偏差)のときに、傾き(b1 + b3w)がゼロではないか、すなわち統計的に有意かどうかである。統計学的には、wが特定の値のときの(b1 + b3w)を直接 t検定するのがいちばん素直な方法だが、t値を算出するときのロジックがやや難しい。そこで、以下に示すのがもっとも直感的にわかりやすい方法である。


wが平均+1標準偏差の値のときの単純傾斜分析を行うとすると、まず、wが平均+1標準偏差の値のときにw'=0となるような新たな変数w'を作成する。これは、w' = w - (平均 +1標準偏差) としてw'を作成すればよい。そして、wの代わりに、新しく作成したw'を使って再度重回帰分析を実行する。つまり、y = a + b1x + b2w' + b3xw' を新たに実行する。この式は、変形すれば y = (a + b2w') + (b1 + b3w') x となるわけだが、wが平均+1標準偏差の値のときにはどうなるだろうか。w'=0なので、y = a + b1 x になることがお分かりだろう。wが平均+1標準偏差の値のときに、yとxとの単回帰式になってしまうことがわかる。ということは、単純に、y = a + b1x + b2w' + b3xw'の分析結果としてb1が統計的に有意であるならば、wが平均+1標準偏差の値のときのy = a + b1 xの単純傾斜b1も統計的に有意だといえるわけである。つまり、単純傾斜分析とは、y = a + b1x + b2w' + b3xw'の分析を実行した場合のb1の有意性を検定することに他ならないのである。


もちろん、今回説明した単純傾斜分析の方法は、直感的にはわかりやすいが、手続きとしては新しい変数を作って重回帰分析を繰り返すのであまりエレガントではなくやや泥臭い感がある。であるが、誰かが作った単純傾斜分析のプログラムをそのメカニズムを理解できないまま半信半疑で使うことなく、自分自身で手順を踏んで分析のロジックに納得しながら単純傾斜分析を実行するときには便利だといえよう。

文献

Aiken, L. S., West, S. G., & Reno, R. R. (1991). Multiple regression: Testing and interpreting interactions. Sage.
Dawson, J. F. (2014). Moderation in management research: What, why, when, and how. Journal of Business and Psychology, 29(1), 1-19.

どうすれば実践に役立つ論文を書くことができるか

経営学は学問である。よって、経営学の研究および論文には、理論的貢献や厳密な方法論が求められることは言うまでもない。同時に、経営学は応用学問であるから、経営の実践に対して役立てることも念頭に置かなければならない。経営学の学術論文は、同業者に向けて書かれるものなので、実務家が直接学術論文を読むことはあまりない。よって、経営学の学術論文を執筆する際に実務家の読者を想定する必要はない。しかし、ビジネススクールで実務家に教える教授や、経営学の博士号を取得したあとに民間で働くような人々は、ちょうど、経営学の学術的知見を実務家にとって有用な助言に翻訳することができる立ち位置にある。よって、そのような人々が学術的知見を実務に応用できるようにするためにも、学術論文において実践的含意を強調することは重要である。


上記の点について、Cuervo-Cazurra, Caligiuri, Andersson, & Brannen (2013)は、経営学(狭くは国際経営)において、いかにして実践との関連性が高いを論文を書けばよいのかの具体的な助言を行っている。例えば、数量研究においては、統計的有意性のみを報告するのではなく、研究から得られる経済的有意義性を示すべきだという。単に「仮説で想定した関係が存在することが支持される」と述べるだけではなく、「本研究で独立変数 X を1単位増加させると、経済的価値(例、利益)が〇%増加する」のような報告もすべきだと説く。また、申し訳程度に実践的含意を論文のディスカッションの部分で1~2段落書き、単に研究結果をなぞっているだけの論文が見られるが、実践的含意をより充実した内容にする必要があると説く。では、実践に役立つ論文は具体的にどう書いていけばよいのだろうか。


Cuervo-Cazurraらは、実践に役立つ論文を書くための心得として、まず、実践の意思決定者が自分の研究を知ったときにどのような反応をするのかを考えるべきだという。意思決定者は、自分の研究を実践に応用してくれるかどうかを考える必要があるというわけである。例えば、自分の研究をわかりやすくかみ砕いたかたちで実務の意思決定者に向けたプレゼンテーションを行う場合、どのようにプレゼンすればよいかということを考えるとよいだろうとCuervo-Cazurraらは述べる。とりわけ以下のように自問自答することが大切だという。1つ目は、どのような意思決定者が(誰が)自分の研究に関心を持つのだろうかという問いである。2つ目は、なぜ、意思決定者は自分の研究に関心を持つのかという問いである。3つ目は、意思決定者はどのように自分の研究を活用するのだろうかという問いである。要するに、実務家、意思決定者が現在実践していることを超えた何かを彼らに提供する(したがって彼らが自分の研究に関心を向ける十分な理由がある)必要があるということである。


次に、Cuervo-Cazurraらは、論文における「実践的含意」をどのように書けばよいのか、とりわけ単なる研究結果を繰り返すに留まらないように書くための助言を行っている。まず、本研究テーマ、理論、発見が、なぜ重要なのか。なぜ実務家や意思決定者が本研究成果に着目する必要があるのかを述べることである。具体的には、なぜ本研究テーマが実務に重要なのか、なぜ本研究で提示した理論および結果(発見)が実務に重要なのか。本研究の理論や結果が、どのように実務上の通説や常識を超え、新たな視点を提供しているのかを明記することである。「実務家は現在普及している方法を用いるよりも、本研究から示唆される方法を用いるほうが良い成果につながる」ということを示すのである。2つ目は、意思決定者が望ましい結果を得るために具体的にどのようなアクションをすればよいのかを示すことである。研究成果がどのように実行されるべきなのかを示すわけである。実務家や意思決定者は何をすればよいのかの具体的な助言を求めているのである。よって、単に研究成果を示すだけでなく、どうすればそれを実行して望ましい結果を得ることができるかを示す必要がある。3つ目は、実務家や意思決定者がこれまでとは異なる視点で物事を眺めることを促すことである。これまでの問題に対して異なる視点、異なるアプローチで取り組むことによってより良い成果につながることを示すわけである。


結びとして、Cuervo-Cazurraらは、論文には3種類あるという。1つ目のタイプは、「私もこんな論文を書いてみたかった」と思わせるもの。2つ目のタイプは「誰かがこのような論文を書いてくれてとても嬉しい」と思わせるもの。3つ目のタイプは「なんでこんな論文が書かれたのだろう」と思わせるもの。前2つの論文が増え、3つ目のタイプの論文が減ることを望むという。

文献

Cuervo-Cazurra, A., Caligiuri, P., Andersson, U., & Brannen, M. Y. (2013). From the Editors: How to write articles that are relevant to practice. Journal of International Business Studies, 44, 285-289

媒介分析(mediation analysis)の間違った理解

経営学や組織行動研究で、媒介関係(mediation)を伴うモデルや仮説は頻出である。媒介仮説とは、独立変数 X が、従属変数 Y に与える影響を、M が媒介するというもので、X → M → Y という因果関係を想定するものである。調整関係(moderation)と組み合わせた調整的媒介(moderated mediation)や、媒介的調整(mediated moderation)など、より複雑なものも増えている。媒介関係を扱うモデルや仮説が経営学や組織行動研究で重要な理由は、媒介関係が、ある現象の因果メカニズムもしくはプロセスを説明することになる場合が多いからである。この媒介仮説を実証的に検証するためには、適切なリサーチデザインと適切な統計分析が求められる。しかしながら、投稿論文の中には、この媒介仮説の検証方法を根本的に間違って理解しているのではないかと疑われるようなものがある。当然そのような論文はリジェクトされる。


媒介仮説が含まれた投稿論文で、もっとも眉唾なのが、横断的データ(クロスセクショナルデータ)を用いて、媒介分析を行っている論文である。このパターンの論文を目にしたら要注意である。念のために付け加えると、横断的データで媒介分析を行っているからといってすべてが間違っているのではなく、もちろん、適切な方法論に則り、媒介仮説が支持されたのかされなかったのか適切な結論を導いているものもある。では、どのような論文が、あやしい論文なのか。おそらく、あやしい論文がどのように出来上がるかというと、とにかく試行錯誤で統計分析を行い、3つ(以上)の変数で媒介関係が示唆させる結果を得たら、後付けでその媒介関係を説明した論文を作成するというものである。統計分析のみで、実際に媒介関係が存在すると信じ込んでしまい、なぜそうなるのかを考えて論文にするのである。


上記のように、媒介関係についての理解を欠く、もっとも深刻な間違いは、横断的データを用いて媒介分析を行う際に、媒介分析の統計学的手法によって因果関係が検証できると考えているケースである。これは明らかに間違いである。統計分析で媒介関係を示唆する結果を得ることは、実際に媒介関係が存在することと同値(必要十分条件)ではない。高校で習う必要条件、十分条件の分類でいうと、研究対象に媒介関係が存在しているということは、適切に横断的データを収集して統計分析したときに媒介関係が示唆される「十分条件」である。しかしその逆は違う。適切に横断データを収集して統計分析をしたところ媒介関係が示唆されたとしても、それは研究対象に媒介関係が存在していることの「必要条件」にしかすぎない。そもそも、横断データで得られる情報は変数間の相関関係のみである。よって、研究対象に媒介関係が存在しなくても、変数間の相関関係のパターンによっては、横断データの統計分析で媒介関係が示唆される結果が出ることは大いにありうるのである。それをもって媒介関係があると結論づけるような論文は大きな間違いを犯していることになる。


例えば、よく分からない説明を振りかざして媒介仮説を提示し、横断データの媒介分析によって、仮説が支持された、よって媒介関係が存在すると胸を張って主張している論文である。これではダメで、媒介分析を行う大前提として、X → M → Y が、論理的にもしくは理論的に正しくて、M → X とか、Y → M が、論理的もしくは理論的にあり得ないことを示しておかないといけない。例えば、X が年齢で、M が頭の回転の速さだとしよう。年齢が頭の回転の速さに影響することは理論的にも論理的にありうるので、X → M の検証は、たとえ横断的データであっても適切な分析を行えば可能である。一方、頭の回転の速さが年齢に影響を与えることは論理的にあり得ないので、いくら X と M の相関情報しか得られなくても、M → X の可能性を考慮する必要がない。いくら横断的データだといっても、因果関係の条件の1つである X が M に時間的に先行していることは明らかなのである。しかし、横断データを用いた眉唾モノの論文の多くは、本当に X → M → Y であることが説明されておらず、M → X とか、Y → M である可能性もあるので、統計的分析のみでは、媒介関係を検証することは不可能である。


上記とも関連するが、媒介関係の検証を行う場合の前提として、X → M → Y が独立した別の変数であることを示しておく必要がある。例えば、X と M が概念的に似ていて、似ているがゆえに横断的にデータを取った時に X と M のあいだに相関関係が生じていると考えられる場合は、統計分析で媒介関係を検証することは不可能である。これもよくあるケースだと思われる。例えば、職務満足度とコミットメント、エンゲージメントなど、すべてが類似した態度変数の場合、横断的に収集したデータでこれらの因果関係を検証することは不可能である。また、これは媒介関係に関わらない話であるが、同一人物からの回答を横断的に収集したようなデータ(クロスセクショナル&自己報告データ)では、必ず、共通方法分散(common method variance)の存在を疑わなければならない。例えば、たまたま回答したときの気分が悪いときは、すべての回答が低めのスコアになり、たまたま気分が良い時は、高めのスコアになる。回答を集約して統計処理をすると、変数間に相関関係が検出される。しかしこれは、変数間に真の相関があるからではなく、測定されていない第3の変数(気分)によってもたらされた擬似相関である。


統計学的に媒介分析をする際には、その手法によって種類は異なるが、さまざまな前提条件がある。その前提が崩れると、結論自体が誤ったものになりかねない。記述のとおり、データ収集や媒介分析を行う前に、理論および仮説としての因果関係が論理的に間違っていないということはほどすべての分析に共通する大前提である。そのうえで、媒介関係を適切に実証分析できるよう可能な限り適切なデータ収集と分析を行っているという前提を満たさなければならない。例えば、X、M、Y を測定する順番と時間間隔が、理論と整合的である(測定感覚が短すぎても長すぎてもいけない)。そのほかにも、X と M の間には交互作用が存在しない、測定の信頼性や妥当性が十分に高いなど、媒介分析を行う際の前提条件がいろいろとあるが、詳しくはAntonakis, Bendahan, Jacquart, & Lalive, R. (2010)や、Kline (2015)をはじめ数多くの論文で説明されているので参照されたい。

文献

Antonakis, J., Bendahan, S., Jacquart, P., & Lalive, R. (2010). On making causal claims: A review and recommendations. The Leadership Quarterly, 21, 1086–1120.
Kline, R. B. (2015). The mediation myth. Basic and Applied Social Psychology, 37(4), 202-213.

重回帰分析における相対的重みづけ分析(relative weight analysis)の直感的理解

経営学や組織行動などの研究で最も頻繁に使われる統計分析の1つが、重回帰分析である。重回帰分析では1つの目的変数を複数の説明変数で予測しようとする。この重回帰分析の際にしばしば生じる研究上の関心は、複数の予測変数の相対的な重要度(relative importance)である。例えば、職場における従業員の総合的な満足度を、仕事への満足度、人間関係の満足度、給与の満足度の3つで予測するとしよう。その際、ただこの3つで予測できるか否かを検証するだけでなく、研究上の関心としては、この3つのどれが最も総合的な満足度に影響を与えているか(関連が深いか、予測力があるか)というようなものがあるだろう。つまり、3つの満足度が総合的な満足度を予測する際の相対的重要性である。そしてこの問題への答えは、統計学的には意外と難しいのである。今回は、そのような統計学的な困難性を手品のような方法で上手にクリアすることで、説明変数間の相対的な重要性の判断を可能にする相対的重みづけ分析もしくは相対ウェイト分析(relative weight analysis)を紹介する。骨子はTonidandel & LeBreton (2011) で説明されている。


上記の問題を、目的変数 y を、3つの説明変数 x1, x2, x3 で予測するとした場合に、相対的な説明力の高さで順位付けしたいとしよう。その場合、問題を以下のように言い換えよう。「x1, x2, x3 のそれぞれが目的変数 y の分散を説明する度合いはどれくらいか。」もし、x1, x2, x3 がそれぞれ無相関である場合、この問題への答えは簡単である。重回帰分析を行った場合の x1, x2, x3 それぞれに対する標準偏回帰係数 β の値が、x1, x2, x3 それぞれの相対的重要度に結びついているのである。もう少し説明すると、x1, x2, x3 それぞれの説明変数に対する標準偏回帰係数は、それぞれの説明変数と目的変数 y との相関係数に他ならず、その二乗をすべて足し合わせれば、重回帰係数の決定係数r2と一致する。決定係数とは、重回帰式に含まれた説明変数が目的変数の分散を説明する度合いだから、その量を x1, x2, x3 に割り振ることができる。 x1, x2, x3 に割り振られた量が、決定係数への貢献度、すなわち目的変数を説明する際の貢献度を意味する。よって、相対的重要度だと解釈して問題はないということになる。


しかしアンケート調査などによる現実のデータにおいては、実験などで人為的に説明変数間を無相関に調整する場合などを除くと、説明変数どうしに相関関係がある場合が普通である。その場合は、話が難しくなる。つまり、 x1, x2, x3 の標準偏回帰係数が単純に相対的重要度を示しているとは言えないのである。この場合、x1, x2, x3の標準偏回帰係数の二乗を足し合わせても決定係数とは一致しないので、単純に目的変数の分散をx1, x2, x3に割り振れない。また、x1, x2, x3 のそれぞれの標準偏回帰係数は、他の変数と目的関数との関連性の影響を受ける。偏回帰係数は、「他の変数が一定で変化しないと仮定した場合」に、当該説明変数 x を一単位増加させた場合に y がどれくらい増加(減少)するかを意味している。なので、他の変数の状況によっては、単純相関で x1 と y とに正の相関があっても、重回帰分析の偏回帰係数がマイナスになることさえある。さらに、説明変数間に相関があるということは、y の分散を説明する部分がそれらの説明変数間でオーバーラップしていることも意味しており、それをどう各説明変数に割り当てればよいのかは簡単にはわからない。


上記のような理由で、「相対的重要度を識別する際の問題はかなり厄介で、困ったことになったぞ」ということになるのであるが、様々な試みが検討された結果、現在では、この問題を解決し、説明変数の相対的重要度をわりと正確に推定できる方法が2つあることが明らかになってきた。その2つの方法が、「ドミナンス分析(dominance analysis)」と、「相対的重みづけ分析(relative weight analysis)」である。ドミナンス分析の説明は別の機会に譲るとして、今回は、相対的重みづけ分析について説明する。こちらは、なるほどと唸ってしまうような「ずるい」やりかたで、説明変数 y が説明される分散を、論理的な破たんを犯すことなく、上手に x1, x2, x3 に割り振ってしまうという、手品のような手法なのである。その手品のタネは、説明変数 x1, x2, x3 と目的変数 y の間に、新たに作成した架空の変数 z1, z2, z3 を挟みこむことで説明変数間の相関に伴う問題を消し去ってしまおうというものである。 z1, z2, z3 が無相関であるところがミソで、これが挟まると驚くように困難な問題が解消されてしまうのである。


具体的には、相対的重みづけ分析(相対ウェイト分析)は以下の手順で行う。まず、 x1, x2, x3 に類似しているが、それぞれが無相関な z1, z2, z3 を作り出す。別の言い方をすれば、お互いに相関している x1, x2, x3 を、お互いに相関しない z1, z2, z3 に変換する。次に、y を z1, z2, z3 を用いて重回帰分析を行う。そうすると、 先に説明したとおり、z1, z2, z3 の標準偏回帰係数の二乗が、yを説明する分散の割り振りに相当するので、相対的な重要性であると簡単に解釈できる。つまり、yに対する z1, z2, z3 の相対的重要性(重みづけ)は無相関であるがゆえに簡単に推定できる。ただし、知りたいのは z1, z2, z3 の相対的重要性ではなく、x1, x2, x3 の相対的重要性である。そこで次のステップとして、x1, x2, x3 のそれぞれを目的変数として、 z1, z2, z3 を用いて重回帰分析を行う。そうすると、例えば、x1を予測するうえでの z1, z2, z3 の相対的重要性は簡単に求まる。先と同じように、標準偏回帰係数の二乗を用いればよい。


さて、ここまでくればあとは簡単である。z1, z2, z3 は、y を説明する上での相対的重要性の情報を持っており、なおかつ、x1, x2, x3 を説明する上での相対的重要性の情報を持っている。よって、これらの情報を組み合わせれば、y を説明する上での x1, x2, x3 の相対的重要性が推定できる。具体的にいうと、x1 の y に対する相対的重み(相対ウェイト、相対的重要性)は、 z1, z2, z3 の相対的重要性について、それぞれのx1に対する相対的重要性情報を用いた加重平均をとるような考え方をすればわかる。相対的重みづけ分析を行うことによって、y を説明する分散がいったん z1, z2, z3 に割り振られ、その割り振られた分散は、さらに x1, x2, x3 に割り振られた。別の言い方をすれば、z1, z2, z3 を仲介することで、y を説明する分散を、 x1, x2, x3 に上手に割り振ることができたのである。もちろん、この分析は万能といわけではないので、参考文献等によってその限界点なども理解されたい。

文献

Tonidandel, S., & LeBreton, J. M. (2011). Relative importance analysis: A useful supplement to regression analysis. Journal of Business and Psychology, 26(1), 1-9.

マネジメントジャーナルが掲載する論文にはどのような貢献が求められるのか

経営学(マネジメント分野)は、心理学や経済学などと比べると、より学際的な要素の強くかつ実践的な貢献も求められる学問分野である。また、Academy of Management Journal (AMJ) のような総合的なマネジメントジャーナルは、Strategic Management, Organizational Behavior, Entrepreneurshipなどを扱う専門分野特化型のジャーナルと比べて取り扱う研究も幅広く、読者層も広く多様である。したがって、総合的マネジメントジャーナルが掲載する論文に求める貢献の仕方や見せ方は、幅の狭い特定のエリアに特化した専門特化型ジャーナル(エリアジャーナル)と比べて異なる点がある。DeCelles, Leslie, & Shaw (2019)は、この点に関して、AMJが掲載論文に要求する貢献のあり方がエリアジャーナルとどう違うのかについて解説している。


まず、DeCellesは、AMJのミッションとして、理論面においても実証面においても、幅広く「新しく」「大胆で」「面白い」貢献を求めていると述べる。したがって、例えば、経営学分野以外の学問分野からインサイトフルな理論を持ち込んで経営現象を説明しようとするような研究は歓迎される。このような視点に鑑み、DeCellesは、AMJと他のエリアジャーナルとの論文に要求される強調点の違いを、研究論文の「朝食(クラフティング)」「椅子(理論構築)」「ベッド(方法論)」に分けて解説する。


研究の理論的、実証的貢献をどのように読者に伝えるか(クラフティング)については、AMJでは論文の導入部分(Introduction)のところで、理論的貢献を明確に伝えることを期待する。すなわち、論文の導入部分では、論文で扱うメインの研究トピックについて、何が分かっており、何がまだ分かっておらず、この論文がその未解答の部分にどう切り込んでいくのか、そうしてどのように当該分野に貢献するのかを明確に示すことが必要だというわけである。優れた貢献とは、この論文が、マネジメント分野における私たちの知識にどのようにインパクトを与え、どう変えるか(揺さぶりをかけ、視点や前提を変え、理解の仕方を変えるか)が重要である。


エリアジャーナルと違い、総合的なマネジメントジャーナルでは、マネジメント全般にかかわる幅広い読者層がいるので、どうマネジメント分野に貢献するのかのクリアな言明は極めて重要である。つまり、マネジメントジャーナルを読んだりそこで論文は発表するというのは、マネジメント全般にかかわる様々な事項についての継続的な対話に参加するということなのである。著者は、マネジメントジャーナルに掲載させることで、過去の論文の著者たちと、そして読者や将来の著者たちと、マネジメントについての対話、議論をする。その対話、議論に貢献するということは、多くの人に「なるほど!」と思わせることなのである。多くの人のものの見方考え方を変える、革新的な視点を提供することが大切である。


理論構築の方法については、AMJ、とりわけその中でもミクロ系の仮説検証型論文では、理論編の中に、明確に記述された仮説が含まれているのを好むとDeCellesらは指摘する。とりわけ重要なのが、提示する諸々の仮説を包括的に説明する、傘となる理論あるいは包括的な理論(overarching theory)である。繰り返すならば、この包括的理論がどれだけ既存の常識を覆したり人々の見方考え方を変えるかということが大切である。例えば、他の学問分野から借用した理論に基づく包括的理論を構築する場合は、そうすることで、マネジメント分野の定番理論に揺さぶりをかけ、軌道修正を迫るようなものが理想である。AMJではしばしば、包括的理論に基づいた諸仮説のつながりを示す全体像が図で示される。そして、なぜそれらの仮説が出てくるのか、あるいは研究結果の解釈が、すべてその包括的理論を参照することでなされることが重要である。様々な理論を切り貼りして何か現象を説明しようとするので理論的貢献が不明瞭なのでだめである。


AMJは実証研究を掲載する雑誌なので(Academy of Management Reviewは理論論文を掲載する)、理論的貢献だけでは論文を掲載できない。つまり、優れた実証的貢献が必要なわけだが、AMJが求める研究方法論は、論文で提示する包括的理論、およびそこから導き出される仮説の妥当性を、できるだけ正確に検証することである。言い換えれば、包括的理論や仮説と、実証研究で用いる変数や測定方法、分析手法がぴったりと一致している必要がある。簡単に言えば、実証部分で一番大切なのは、論文で主張するあるいは提示する包括的理論が実証的(経験的)に妥当なものであるかどうかを正確に検査し、その結果を報告することである。したがって、例えば、包括的理論の妥当性を検証するのに必要な変数が抜け落ちていたり省略されていてはだめである。変数の選択は適切であっても測定方法が適切でなかったり、測定したい変数と実際の測定とに意味的なずれがあったりしてはだめなのである。


そして、経営学(マネジメント)は、経営(マネジメント)の実践への貢献も期待されているわけであるから、検証した包括的理論や仮説が、現実の経営現象に当てはまるのか(外部妥当性)が重要であることはいうまでもない。例えば、いくら包括的理論や仮説をデータで実証したといっても、経営の現場や職場で起こる現象を説明する理論を大学生をサンプルにした実験などで検証したとするならば、それでは提示された理論や仮説が実際の経営現場、職場で起こっていることに本当に当てはまるのかの確証が得られないので不適切だということになるのである。

文献

DeCelles, K. A., Leslie, L. M., & Shaw, J. D. (2019). From the Editors—Disciplinary Code Switching at AMJ: The Tale of Goldilocks and the Three Journals. Academy of Management Journal, 52, 635-640