理論論文の3つの文法とそれぞれの形式で優れた論文を執筆する秘訣とは

仮説検証型の数量的な実証研究などに比べ、新たな理論の構築や視点の提供を目的とする理論論文の場合、さまざまな論文形式が存在し、論文執筆のテンプレートやレシピのようなものは存在しない。むしろ、新たな理論やコンセプト、視点を提唱するための論文であるがゆえに、特定の論文形式にこだわらず、柔軟かつ様々な形式があってしかるべきだともいえる。しかし、Cornelissen (2017)は、そのような中でも、Academy of Management Reviewで掲載される論文の中でもっとも典型的な3つの論文形式あるいは「文法」があり、それぞれ、著者が陥りがちな欠点と、それらへの対処法があるという。Cornelissenが特定する3つの理論論文形式とは、命題形式(proposition-based style)、語り(ナラティブ)形式(narrative-based style)、分類形式(typology-based style)である。


まず、AMRの理論論文でももっともポピュラーな形式なのが、命題形式である。これは、理論展開とともに、明確に概念間の因果関係などを示した命題を挿入していく論文形式である。もともとは、実証主義的な研究者に好まれる形式であり、今後の仮説検証型実証研究につながるような意図をもって書かれたものが多かったが、最近では、より柔軟に異なる科学哲学的見地からも採用されるようになっているとCornelissenは指摘する。この命題形式の投稿論文に多くみられる問題は、生み出された命題の幅が狭いために、斬新な視点が提供されにくいことである。例えば、提出命題が過去の文献を要約することで出てくる類もののにすぎなく、まったく新しい論理を提供するものではないことがある。そもそも、命題は新しい理論的視点を提供するための広義の概念間の関係を表現するものであるが、それが実証研究で用いられるような既存の理論から演繹的に導き出される仮説のようになってしまうことがあるというのである。既存の理論から演繹的に導いただけでは新しい情報が生み出されないわけであるから、新しい理論にはならない。別の問題としては、論文の理論展開の中で、本題とはあまり関係のない命題がたびたび登場することである。これは、提示しようとするモデルの一部分として切り取ったものを命題化していると思われるが、それ自体に目新しさが見いだせないのである。


上記にあげた命題形式における投稿論文に共通する問題点の解決策としては、論文を書く際には、大きなキャンバスを使って絵を描くようにするべきだという。なぜならば、命題形式の論文作成時には、既存の文献に依存しすぎて、狭い範囲に焦点を絞りすぎることが多いからである。査読者が求めているのは、もっと広い範囲から、新しくかつユニークな理論的視点から議論されている原稿なのである。そのためには、著者は、まったく新しい理論パースペクティブを用いて議論を展開するとか、異なる理論パースペクティブは対立する理論パースペクティブブレンドすることで新しい議論を展開するということが必要だとCornelissenはいう。また、多くの著者が、命題形式にとらわれて、一連の命題やモデルを考えてからそれに肉付けをしていくようなスタイルをとることが上記の問題につながっていることが考えられるため、命題を考える前に、よく練られた理論展開のストーリーを構築することを勧めている。各命題は、この論理展開の節目で要約を挿入するようなものだというわけである。


次に、語り形式についてである。語り形式あるいはナラティブ形式は、特定の帰結に向かって一連の出来事がどのように展開していくのかというプロセスを説明することを目的とする論文形式である。その際に、出来事のつながりがストーリーラインとして表現されるわけである。つまり、ある特定の帰結につながるプロセスの展開およびそのダイナミズムを説明する「プロセスモデル」を紹介する論文である。この論文形式の投稿論文に多く見られる問題点は、ストーリーラインがあまりにも記述的に過ぎず、理論的な説明が欠落しがちなことである。例えば、特定の文脈で物事がどう進展していくのかを記述するにすぎないものがる。逆の方向での、ストーリーが説明的ではあるが、あまりにも一般的な説明にすぎず、因果関係の詳細が分からないことである。関連する別の問題点としては、説明しようとするプロセスの個々のステップにおける詳細な記述に終始してしまい、説得力のある説明に欠けることである。別の問題点としては、しばしば、何かの動きやプロセスを名詞化して表現しようとする「例、〇〇化」ために、その概念を用いた説明が循環論的になってしまうことである「例、〇〇化によって〇〇が起こる」。


上記のような問題を解決する方法としてCornelissenが推奨するのは、まず、具体的な出来事やシナリオから離れて、もう少し抽象的かつ分析的な説明を考えることである。そのためには、特定の文脈における個々の具体的なステップの記述にとらわれず、対象となる帰結に向かう一般化が可能な抽象的説明の方法を考えることである。別のアドバイスとしては、プロセスモデルのストーリーラインに、そのプロセスを動かす主人公や敵のような登場人物のような存在(人というわけではない)を加えてみることである。そうすることにより、単に一連の出来事が起こることを記述したものにすぎないという批判を乗り越え、そのプロセスがなぜそうなるのか、そのプロセスの原動力は何なのかの説明が可能となるわけである。プロセスの途中で異なる言説が現れてくるなどの動きを加えることで、より説明力のあるプロセスモデルになっていくともいう。


3つめの論文形式が、分類形式である。これは、アイデアや観察事項をクラスター化して分類することで、マネジメントや組織の現象の多元的な理解を可能にしようとする論文形式である。これは、異なる概念や部分的にしか説明されていないものを統合することで「統合理論」を構築しようとすることでもある。命題形式の論文に見られる命題が、どちらかというとより複雑な現象を少数の概念間の関係に「集約」していこうとするのに対して、概念や因果関係をより複雑化していこうとすることでもある。この形式を用いた投稿論文に多くみられる問題は、論文が単に経験的な事象を分類したにすぎないというものである。観察可能な現象を分類しただけで、理論的な分類の努力が見られなければ、理論的な新しさも生み出せないわけであり、理論的な貢献はできない。別の問題は、確かに理論的な分類は試みているのだが、ごく少数の次元に限定してしまっているために、理論的な深みが出せないというものである。そうなると、単に先行文献をレビューして分類したにすぎないということになってしまう。さらに別の問題としては、分類の中に、因果関係や相互作用のようなものが暗黙的に含まれていてそれが明示されていないか、あるいは曖昧模糊としてしているものである。複雑な因果関係が暗黙的に絡んだ分類では、読者を混乱させてしまうことになる。


上記のような問題を解決する方法として、まずは、分類をすることで意図する学術的貢献と実際のその分類が実現する学術的貢献を意識し、その分類が、新たな概念に基づく新たな理論構築につながるのか、新たな命題や新たな説明につながるのかを検討するのがよいとCornelissenはいう。そうでなければ、それは、分類形式の理論論文になるというよりは、レビュー論文として作成されるべきだという結論になるかもしれない。別のアドバイスとしては、分類を試みる際に、理論的な次元と因果関係により気を配ることである。さらに、より因果関係に着目した分類を試みるということの有効性もCornelissenは示唆する。


最後に、Cornelissenは、理論論文の形式はこれら3つの文法に限定されるわけではないとしながらも、この3つのそれぞれの特徴、共通する問題点、それらの解決方法について深く理解することで、自分が作成する理論論文をどのように執筆していけばよいのかの理解が深まると指摘する。これらの形式で論文を執筆する訓練は現状の博士課程などで学ぶことは少なく、多くが直接的な経験から学ぶものであるが、単にそれぞれの形式に慣れ親しむだけでなく、特定の形式で論文を書くことによって自分のアイデアを表現するスキルを身に着けていくことも必要だと指摘する。

文献

Cornelissen, J. (2017). Editor’s Comments: Developing Propositions, a Process Model, or a Typology? Addressing the Challenges of Writing Theory Without a Boilerplate. Academy of Management Review, 42(1), 1-9.