数学の証明に学ぶ論文作成テクニック

文科系出身の人などの中に、もともと理詰めに考えることが苦手なゆえに論文作成において苦戦する人が多い。特徴としては、論文であるのに論理的な文章が書けない。例えば、論理が飛躍したりあっちにいったりこっちにいったりする。論旨に矛盾があったり辻褄があわない。舌ったらずというか説明不足であるために論理に漏れが多い。つまり、ツッコミどころ満載である、といった具合である。


そういった場合、数学の証明問題を思い出すとよい。なぜなら、論文は論理を紡ぐものであり、そもそも数学は論理で成り立つ学であるといってよいからである。数学である事柄が証明できるということは、その論理には欠陥がないことを意味する。だから、数学の証明のように論文が書ければ、その論文の論理に漏れや欠陥はないということになるわけである。


具体的には以下のような手順になろう。まず最初に、証明すべき問題を定義する必要がある。どんな問題を証明するのかを曖昧さや多義性をなくすかたちで厳密に定義してクリアにする。そして次に、この問題の特徴を吟味し、どういった方向でこの問題にアプローチをしていくのかを説明する。これはいってみれば論文の導入部分だ。もちろん、その問題が証明するに値する面白いもの、重要であることは十分に読者に理解してもらうようにすることは当然である。


次に、証明で明確にしておく「公理」や「定理」を整理しておく。「公理」はそれ自体証明できるものではなく、前提である。この前提から論理的に結論を導いていくすなわち証明するわけである。これは、その分野で自明であるならば省略可能であろうが、そうでないならば明確にしておく必要がある。「定理」は、すでに先人が面倒な証明を完了したものであるから、論理の飛躍あるいは論理のブラックボックスである。「定理」は先人がすでにやったことだから、「定理」として示せばこの証明では順を追って論理を展開していく必要がないということである。定理についても、それが当該分野では自明であるために説明不要な場合を除いて、先に説明しておく必要がある。


ここまで準備が整えば、あとは順序立てて証明を実践していくということである。基本は公理から演繹的に結論を導いていくプロセスなので、情報保存的である。つまり、証明を実践していく途中で新しい前提(公理)や情報が加わったりしてはいけない。定理を用いて論理を飛ばす(ショートカットする)部分以外は、すべて丁寧に、漏れがないように論証していく。そうすることによって、完全なかたちで証明することができる。論文もこれに倣えば、レトリックの巧拙は別として、少なくとも論理的に破たんするということはないであろう。