論理的な論文を書くには

論文は「論理の束」だと考えられる。論文とは何かを論じることであり、それは、論理を用いてある結論を導くプロセスの記述だと考えられるからである。では、論理的な論文を書くにはどうすればよいだろうか。そのヒントとなるのが、数学で使われる論理を理解することであろう。数学以外の論文でも、意味を捨象して論理構造のみを取り出せば、数学もしくは形式論理学と同じ形になるだろう。


論理を使って結論を導く過程が数学の証明である。荒井(2009)によれば、「証明とは、仮定・公理から、三段論法を用いて結論づけられる命題の列である。」ここでいう3段論法とは、(PならばQ)「P→Q」と、(QならばR)「Q→R」から、(PならばR)「P→R]を導く論法で、仮定・公理から「P→Q」「Q→R」ゆえに「P→R」、「P→R」「R→S」ゆえに「P→S」というかたちの3段論法を繰り返していけば、Pからどんなに遠くの結論であっても、論理的に到達できる。集合や図で考えると、PはQに含まれる、QはRに含まれる、ゆえにPはRに含まれるという関係になっている。


ちなみに、荒井は、この3段論法を自然数のケースで用いると「数学的帰納法」が可能になることを説明する。数学的帰納法では、自然数に属するnに関する性質Q(n)について、「Q(1)が正しい」「任意の自然数kについてQ(k)→Q(k+1)」の2つが示されれば、Q(n)が正しいという結論が導かれる。ここでは、以下のような3段論法のドミノ倒しが使われる。すなわち、Q(1)→Q(2)(Q(1)が正しければQ(2)が正しい)。仮定よりQ(1)が正しいから、Q(2)も正しい。同じ論法で、Q(2)が正しいからQ(3)も正しい、というプロセスが延々と続くので、論理的にはすべての自然数について正しいということになる。


複数の仮定から3段論法を積み重ねて結論を導けば、それは仮定が正しければ、それも論理的に正しいという仮説を作ることができる。その仮説が経験値とフィットするかを実証研究で検証する場合には、通常、統計的仮説検定が行われるが、ここでは背理法の論理が用いられる。つまり、「仮説が正しくない」を仮定して(帰無仮説)そこから矛盾を引き出すことで「仮説が正しい」を導くような方法をとる。ただし、統計的仮説検定は、経験的データから帰無仮説が矛盾であるとみなす(推論する)に過ぎないため、証明とはいえない。