未来を見通し危機に備える

北尾(2009)の著書の随所において、古典に基づく先哲の知恵が紹介されている。例えば『易経』は、物事が変化する前に、その変化すなわち「幾」を察する能力を養うための書物だという。物事が動き、変化する前には必ず「機微」が現れるが、この機微を察知するには、易学により洞察力と直感力を身につけておくのが一番だという。易経では3つの「キ」が学べる。幾何学の「幾」は兆しや機微、機会の「機」は勘所、ツボ、期間の「期」は、物事が熟して満ちることで、タイミングが重要だということだ。


また『菜根譚』からは、下り坂に向かう兆しは最盛期に現れ、新しいものの胎動は衰退の極みに生じるという一節を紹介している。易経の「陰極まりて陽になる」のと同じである。


このような視点に基づき、北尾は、混迷を極める現在において、未来を見通し危機に備えるためには、不変の哲理が必要だと言う。つまり、良い時にも悪い時にも自分のスタンスを変えず、原理原則を貫くことである。例えば、先見性を持つためには、(1)物事の本質を見る、(2)長期で見る、(3)多角的に見る、という「思考の3原則」から学ぶべきだと言う。(1)は、枝葉末節を捨象して、根幹だけをまず見抜くということ、(2)は、短期的視点に囚われず、過去から将来まで、長期的な時間軸で物事を捉えること、(3)は、1つの視点からだけではなく、第三者や相手方などいろいろな視点で考えてみるということである。


そして北尾は、原理原則、不変の哲理を身につけるには「事上磨練」しかないという。日常生活の中で、社会生活の中で、自分で自分を鍛えていくということだ。「積小為大」つまり小を積んで大きいことをするのが重要だ。