投稿論文の長い旅4

査読結果を読み、困難に思える問題点を克服しながらも、なんとか再投稿用の原稿を仕上げるまでにはものすごく時間がかかるものだが、査読者に対して修正を説明する手紙を書くのにも、これと同じくらいの時間と労力が必要なのである。通常、査読者は3名ほどおり、それぞれの査読者が異なる視点から、異なる箇所について指摘をしてくる。もちろん、共通する指摘もあり、それは特に論文のもっとも深刻な問題点であったり、肝の部分であったりする。修正が簡単なものもあるし、困難なものもある。これらのすべての指摘に対し、どのように対応したかの説明を手紙に書く。


「どのように修正したか、原稿がどれだけ改善されたかは読んでみればわかる」というのではいけないのである。査読者が指摘した問題が、どういう形で解決されたのかをわかりやすく説明しなければならない。そうしてはじめて、査読者は納得してくれるからである。


査読者の指示通りに修正したのであれば、それが適切であることを示す必要があるし、査読者の意見とは異なっていたり、あるいは修正が困難な場合には、どのようにそれに対処したのかと、どの根拠(反論であればその理由)を丁寧に説明しなければならない。その回答を作成するために、さらに文献などをサーベイしたりしてバックアップする必要性も生じる。


こういったかたちで、査読者に対する説明にも、知恵を絞りつつ、どのように書いたらもっとも査読者の印象をよくするかどうかを考え抜かねばならない。書いては、査読者の立場にたって読み返し、不明瞭な点や反論が出てきそうであれば書き直す。この作業の繰り返しで、査読者への手紙は、論文の原稿そのものと同じくらいの分量にまで膨らんでいくのである。


査読者の印象が、この論文の運命を左右する。好印象をもらえなければ、この論文はお蔵入りしてしまう可能性すらある。そうすると、これまで費やしてきた時間や労力が水の泡である。だから、慎重に、丁寧に、時間をかけて完璧な説明を目指していくのである。


そして、査読者と同様、エディターに対しても同じように手紙を書く。査読結果を元に、論文を掲載するかどうか最終的な意思決定をするのはエディターであるから、多少査読者の反論をもらっても、エディターが総合的に見てよいと判断すれば助かる。よって、エディターに対しても慎重に言葉を選んで手紙を作成するのである。


このようにして、3人の差読者それぞれへの手紙、そしてエディターへの手紙と、あわせると論文原稿そのものとほぼ同じくらいの分量の手紙を、論文の改訂と同じくらい時間をかけて作り上げ、そして初めて再投稿するのである。この段階では、ひとつの論文にかかりきりで、考えに考え抜いて最善を尽くしたというある意味達成感が得られるとともに、次の意思決定までの1〜2ヶ月は、この論文のことを忘れられるという安堵感も得られるのである。