論文の持つ価値を最大限に高める方法

いくら優れた研究を行っても、論文としてその価値を明確に表現できなければ、評価されることはない。では、論文の持つ価値を最大限に表現するための執筆法はあるのだろうか。Ragins (2012)は、経営学のトップジャーナルであるAcademy of Management Reviewのレビュアーからのコメントをもとにして、以下のように論文の価値が明確になる執筆の仕方のレシピを紹介している。


まず、できるだけ論文の冒頭に近いところで、この研究独自の付加価値による貢献を売り込むことが重要である。例えば、論文の最初のパラグラフの最後の行で、この論文(研究)においてどのような学術的貢献を行おうとしているかを軽く述べるとよい。そして、論文の最初から3ページ以内で、具体的な学術的貢献意図についてもう少し詳しく述べるのがよい。


類似するポイントとして、まず、最初のパラグラフで、この論文(研究)が既存のいかなる分野(先行文献)の発展に貢献しようとしているのかを述べる。そして第2パラグラフでは、この論文(研究)が、先行文献におけるいかなる問題を解決しようとしているのかを述べる。そして第3パラグラフで、この論文(研究)が、特定した問題を、いかなる方法によって解決しようとしているのかを述べる。その方法が、これまでのアプローチとどう異なるのか、どのようにしてうまくいくのか、そして何故そちらのほうが優れているのかを述べる。提示した問題(問い)に対する答えのエッセンスのみを冒頭で紹介して序論を終える。その後すぐに、具体的な内容に入っていく。


さらに、論文の冒頭の3〜7パラグラフくらいを使って、この論文の付加価値、貢献など最も重要な部分を明確に述べれば、それは読者にとっても著者にとっても、その後につづく論文の内容へのわかりやすいロードマップとなる。この部分は独立していると考えてもよい。であるから、この部分のみを他者に見せて、読者を惹きつけるだけの魅力がある論文かどうかを判断してもらうのもよい。そもそも、一番最初に読者を惹きつけるための箇所であるから、100回は書きなおして推敲するだけの価値のある部分である。


各段落にある「トピックセンテンス」が、論文全体を通じてきちんと論理的かつ説得力のあるかたちでつながっているかを確かめるのがよい。それが確認できれば、各段落においてトピックセンテンスを説明し、拡張するような内容を付加(肉付け)していけばよい。これを手順的にいうならば、最初に、論文で記述したいストーリーを、キーとなる言葉やつながりを意識して箇条書きで1ページに収まるように書くとよい。それから、それをよりよく洗練させていくとよい。

文献

Ragins, B. (2012). Reflections on the craft of clear writing. Academy of Management Review, 37, 493-501.