マネジメントジャーナルが掲載する論文にはどのような貢献が求められるのか

経営学(マネジメント分野)は、心理学や経済学などと比べると、より学際的な要素の強くかつ実践的な貢献も求められる学問分野である。また、Academy of Management Journal (AMJ) のような総合的なマネジメントジャーナルは、Strategic Management, Organizational Behavior, Entrepreneurshipなどを扱う専門分野特化型のジャーナルと比べて取り扱う研究も幅広く、読者層も広く多様である。したがって、総合的マネジメントジャーナルが掲載する論文に求める貢献の仕方や見せ方は、幅の狭い特定のエリアに特化した専門特化型ジャーナル(エリアジャーナル)と比べて異なる点がある。DeCelles, Leslie, & Shaw (2019)は、この点に関して、AMJが掲載論文に要求する貢献のあり方がエリアジャーナルとどう違うのかについて解説している。


まず、DeCellesは、AMJのミッションとして、理論面においても実証面においても、幅広く「新しく」「大胆で」「面白い」貢献を求めていると述べる。したがって、例えば、経営学分野以外の学問分野からインサイトフルな理論を持ち込んで経営現象を説明しようとするような研究は歓迎される。このような視点に鑑み、DeCellesは、AMJと他のエリアジャーナルとの論文に要求される強調点の違いを、研究論文の「朝食(クラフティング)」「椅子(理論構築)」「ベッド(方法論)」に分けて解説する。


研究の理論的、実証的貢献をどのように読者に伝えるか(クラフティング)については、AMJでは論文の導入部分(Introduction)のところで、理論的貢献を明確に伝えることを期待する。すなわち、論文の導入部分では、論文で扱うメインの研究トピックについて、何が分かっており、何がまだ分かっておらず、この論文がその未解答の部分にどう切り込んでいくのか、そうしてどのように当該分野に貢献するのかを明確に示すことが必要だというわけである。優れた貢献とは、この論文が、マネジメント分野における私たちの知識にどのようにインパクトを与え、どう変えるか(揺さぶりをかけ、視点や前提を変え、理解の仕方を変えるか)が重要である。


エリアジャーナルと違い、総合的なマネジメントジャーナルでは、マネジメント全般にかかわる幅広い読者層がいるので、どうマネジメント分野に貢献するのかのクリアな言明は極めて重要である。つまり、マネジメントジャーナルを読んだりそこで論文は発表するというのは、マネジメント全般にかかわる様々な事項についての継続的な対話に参加するということなのである。著者は、マネジメントジャーナルに掲載させることで、過去の論文の著者たちと、そして読者や将来の著者たちと、マネジメントについての対話、議論をする。その対話、議論に貢献するということは、多くの人に「なるほど!」と思わせることなのである。多くの人のものの見方考え方を変える、革新的な視点を提供することが大切である。


理論構築の方法については、AMJ、とりわけその中でもミクロ系の仮説検証型論文では、理論編の中に、明確に記述された仮説が含まれているのを好むとDeCellesらは指摘する。とりわけ重要なのが、提示する諸々の仮説を包括的に説明する、傘となる理論あるいは包括的な理論(overarching theory)である。繰り返すならば、この包括的理論がどれだけ既存の常識を覆したり人々の見方考え方を変えるかということが大切である。例えば、他の学問分野から借用した理論に基づく包括的理論を構築する場合は、そうすることで、マネジメント分野の定番理論に揺さぶりをかけ、軌道修正を迫るようなものが理想である。AMJではしばしば、包括的理論に基づいた諸仮説のつながりを示す全体像が図で示される。そして、なぜそれらの仮説が出てくるのか、あるいは研究結果の解釈が、すべてその包括的理論を参照することでなされることが重要である。様々な理論を切り貼りして何か現象を説明しようとするので理論的貢献が不明瞭なのでだめである。


AMJは実証研究を掲載する雑誌なので(Academy of Management Reviewは理論論文を掲載する)、理論的貢献だけでは論文を掲載できない。つまり、優れた実証的貢献が必要なわけだが、AMJが求める研究方法論は、論文で提示する包括的理論、およびそこから導き出される仮説の妥当性を、できるだけ正確に検証することである。言い換えれば、包括的理論や仮説と、実証研究で用いる変数や測定方法、分析手法がぴったりと一致している必要がある。簡単に言えば、実証部分で一番大切なのは、論文で主張するあるいは提示する包括的理論が実証的(経験的)に妥当なものであるかどうかを正確に検査し、その結果を報告することである。したがって、例えば、包括的理論の妥当性を検証するのに必要な変数が抜け落ちていたり省略されていてはだめである。変数の選択は適切であっても測定方法が適切でなかったり、測定したい変数と実際の測定とに意味的なずれがあったりしてはだめなのである。


そして、経営学(マネジメント)は、経営(マネジメント)の実践への貢献も期待されているわけであるから、検証した包括的理論や仮説が、現実の経営現象に当てはまるのか(外部妥当性)が重要であることはいうまでもない。例えば、いくら包括的理論や仮説をデータで実証したといっても、経営の現場や職場で起こる現象を説明する理論を大学生をサンプルにした実験などで検証したとするならば、それでは提示された理論や仮説が実際の経営現場、職場で起こっていることに本当に当てはまるのかの確証が得られないので不適切だということになるのである。

文献

DeCelles, K. A., Leslie, L. M., & Shaw, J. D. (2019). From the Editors—Disciplinary Code Switching at AMJ: The Tale of Goldilocks and the Three Journals. Academy of Management Journal, 52, 635-640