継接ぎ型論文に陥るのを防ぐには

ビギナーの研究者が犯しがちな不適切な数量的な実証論文の1つに、変数間の説明を異なる理論を用いて説明している、すなわち、論文全体が異なる理論による変数間の継接ぎのような状態になっているものが挙げられる。これを「継接ぎ型論文」と呼ぶならば、継接ぎ型論文は明らかにリジェクトの対象となるし、継接ぎ型論文は意外と数が多くやっかいである。とりわけビギナーが作成した論文の場合、タイトルを見るだけで継接ぎ型論文であることがおおよそ判明してしまうというケースも多い。例えば、「〇〇が△△に与える影響と✕✕による調整効果」(The Effect of X on Y: The Moderating role of W)のようなタイトルである。

 

継接ぎ型論文は、例えば、実証論文全体としてはX⇒M⇒Yというモデルとデータによるその検証が行われ、理論部分において、なぜ X⇒M なのかをある理論で説明し、なぜ M⇒Yなのかを別の理論で説明している。だからX⇒M⇒Yという因果関係が成り立つのだと主張する。さらに複雑なモデルも多いが同じ原理で作成されている。なので、全体として見ると異なる理論を糊として変数と変数を継接ぎしたような論文なのである。なぜこのような論文が不適切なのか。それは、この論文でどんな現象を、どのような理論枠組みで説明しようとしているのかが不明だからである。言い換えれば、理論的貢献が全くないということである。

 

なぜ、リジェクトされつづけてしまって行き場がなくなってしまうような継接ぎ型論文が生まれてしまうのか。それはおそらく、ビギナーである研究者が、データ分析をして変数間の関係をモデルとして特定してしまってから、論文の執筆にとりかかるからだろうと推測される。学界ではこれをHARKing (hypothesizing after the results are known)と呼んでいる。HARKingがなぜ不適切なのかは以下のリンクでも書いたのでここでは説明しない。

なぜ分析結果を見てから仮説を作った論文はリジェクトされるのか - 講義のページへようこそ

 

では、継接ぎ型論文を作成してしまう過ちを犯さないようにするにはどうすればよいのか。それは、すでに決定してしまったモデルおよびそれを構成する変数の関係を説明するための理論を考えるのではなく、それとはまったく逆の順序で考えることである。つまり、研究対象としての現象を、特定の理論を用いてストーリーとして説明してみるのである。チェックすべきは、研究対象とする現象は興味深いものであるか、そして、なぜそのような現象が生じるのかを説明する理論的なストーリーの筋が通っており、かつ新規性や一貫性があるかどうかである。

 

興味深い研究対象、そしてそこで生じている現象をうまく説明する理論枠組み。これが出来上がれば、それを具体的に検証するにはどのような変数が必要なのかが特定されてくる。理論枠組みはアイデアやコンセプトで成り立っているから、抽象的なレベルでしか存在せず、具体的には目に見えないものである。そのような抽象的なアイデアやコンセプト、理論枠組みが正しいかどうか(妥当かどうか)を検証するためには、その理論枠組みによって動かされていると思われる目に見えてかつ数量的に測定できる具体的なもの(変数)の関係性を調べることが必要となる。これがいわゆる変数間の関係で表現される仮説である。これらの変数や仮説が複数特定されると、検証したい理論と対応するかたちで変数間の因果関係がモデル化される。

 

このような順序で考え、論文化していくと、継接ぎ型論文にはならないはずである。まず、研究対象となっている現象を説明するための理論枠組みとストーリーが提示され、そこから具体的な変数間の「仮説」が導き出される。これを、適切な方法論で検証するからである。このように作成された論文の理論枠組みは、決して異なる理論を継接ぎしたようなものではなく、現象全体を一貫して説明するものである。興味深い現象を説明するための一貫しておりかつ新規性のある理論枠組みやストーリーを提示するからこそ、納得感と共感を得られ、足りないところ、弱いところの改善と長所のさらなる強化を繰り返すことによってジャーナルに採択されるようになる。継接ぎ型論文では一貫した理論枠組みやストーリーがないので納得も共感も得られないのである。