ストーリーとしての学術論文

学術研究の成果は、論文などの「言葉」によって伝えられる。よって「言葉」の重要性は強調してもしすぎることはない。Pollock & Bono (2013)は、研究者の主な仕事は、重要な問いに答えることと、ストーリーを語ることだという。問いに答えるだけではだめで、それを「ストーリー」として語らねばならないということである。


したがって、研究の成功は、学術的問いへの答えそのもののみならず、それに基づき、いかににして魅力的なストーリーを語るかにかかっている。Rollock & Bonoは、ストーリーの語り部としての論文で重要なポイントを、以下のように説明している。


まず、論文に人格があるかどうかである。あるいは論文に「人の顔」があるかどうかである。人格のない論文、あるいは人間的感情を完璧なまでに殺した論文は無味乾燥でつまらない。論文の内容そのものは価値中立的で客観的なものであるとしても、それを語る主体は血の通った人間であるべきである。人間味のある語り方であるほうがよいのである。であるから、論文の語り方にはある程度人間味があるほうがよい。


つぎに、論文の語りの展開に、適度な動きとペースが感じられることが重要である。適度というところが味噌である。語りの展開が(動きが)速すぎて、説明の少ない論文には読者はしばしばついていけなくなる。逆に、長ったらしい序章、過剰な先行文献レビュー、過剰な内容説明など、動きが過少で説明が多すぎる論文は重くて読みづらい。


論文のタイトルも重要である。例えば、本屋にいって棚にある本をざっと見て、手にとって読んでみたくなるようなタイトルがよい。タイトルは読者がその論文にいだく第一印象を決めるので、ストーリーを語る上で極めて重要なのである。

文献

Pollock, T. G., & Bono, J. E. (2013). Being Scheherazade: The Importance of Storytelling in Academic Writing. Academy of Management Journal, 56(3), 629-634.