どうすれば実践に役立つ論文を書くことができるか

経営学は学問である。よって、経営学の研究および論文には、理論的貢献や厳密な方法論が求められることは言うまでもない。同時に、経営学は応用学問であるから、経営の実践に対して役立てることも念頭に置かなければならない。経営学の学術論文は、同業者に向けて書かれるものなので、実務家が直接学術論文を読むことはあまりない。よって、経営学の学術論文を執筆する際に実務家の読者を想定する必要はない。しかし、ビジネススクールで実務家に教える教授や、経営学の博士号を取得したあとに民間で働くような人々は、ちょうど、経営学の学術的知見を実務家にとって有用な助言に翻訳することができる立ち位置にある。よって、そのような人々が学術的知見を実務に応用できるようにするためにも、学術論文において実践的含意を強調することは重要である。


上記の点について、Cuervo-Cazurra, Caligiuri, Andersson, & Brannen (2013)は、経営学(狭くは国際経営)において、いかにして実践との関連性が高いを論文を書けばよいのかの具体的な助言を行っている。例えば、数量研究においては、統計的有意性のみを報告するのではなく、研究から得られる経済的有意義性を示すべきだという。単に「仮説で想定した関係が存在することが支持される」と述べるだけではなく、「本研究で独立変数 X を1単位増加させると、経済的価値(例、利益)が〇%増加する」のような報告もすべきだと説く。また、申し訳程度に実践的含意を論文のディスカッションの部分で1~2段落書き、単に研究結果をなぞっているだけの論文が見られるが、実践的含意をより充実した内容にする必要があると説く。では、実践に役立つ論文は具体的にどう書いていけばよいのだろうか。


Cuervo-Cazurraらは、実践に役立つ論文を書くための心得として、まず、実践の意思決定者が自分の研究を知ったときにどのような反応をするのかを考えるべきだという。意思決定者は、自分の研究を実践に応用してくれるかどうかを考える必要があるというわけである。例えば、自分の研究をわかりやすくかみ砕いたかたちで実務の意思決定者に向けたプレゼンテーションを行う場合、どのようにプレゼンすればよいかということを考えるとよいだろうとCuervo-Cazurraらは述べる。とりわけ以下のように自問自答することが大切だという。1つ目は、どのような意思決定者が(誰が)自分の研究に関心を持つのだろうかという問いである。2つ目は、なぜ、意思決定者は自分の研究に関心を持つのかという問いである。3つ目は、意思決定者はどのように自分の研究を活用するのだろうかという問いである。要するに、実務家、意思決定者が現在実践していることを超えた何かを彼らに提供する(したがって彼らが自分の研究に関心を向ける十分な理由がある)必要があるということである。


次に、Cuervo-Cazurraらは、論文における「実践的含意」をどのように書けばよいのか、とりわけ単なる研究結果を繰り返すに留まらないように書くための助言を行っている。まず、本研究テーマ、理論、発見が、なぜ重要なのか。なぜ実務家や意思決定者が本研究成果に着目する必要があるのかを述べることである。具体的には、なぜ本研究テーマが実務に重要なのか、なぜ本研究で提示した理論および結果(発見)が実務に重要なのか。本研究の理論や結果が、どのように実務上の通説や常識を超え、新たな視点を提供しているのかを明記することである。「実務家は現在普及している方法を用いるよりも、本研究から示唆される方法を用いるほうが良い成果につながる」ということを示すのである。2つ目は、意思決定者が望ましい結果を得るために具体的にどのようなアクションをすればよいのかを示すことである。研究成果がどのように実行されるべきなのかを示すわけである。実務家や意思決定者は何をすればよいのかの具体的な助言を求めているのである。よって、単に研究成果を示すだけでなく、どうすればそれを実行して望ましい結果を得ることができるかを示す必要がある。3つ目は、実務家や意思決定者がこれまでとは異なる視点で物事を眺めることを促すことである。これまでの問題に対して異なる視点、異なるアプローチで取り組むことによってより良い成果につながることを示すわけである。


結びとして、Cuervo-Cazurraらは、論文には3種類あるという。1つ目のタイプは、「私もこんな論文を書いてみたかった」と思わせるもの。2つ目のタイプは「誰かがこのような論文を書いてくれてとても嬉しい」と思わせるもの。3つ目のタイプは「なんでこんな論文が書かれたのだろう」と思わせるもの。前2つの論文が増え、3つ目のタイプの論文が減ることを望むという。

文献

Cuervo-Cazurra, A., Caligiuri, P., Andersson, U., & Brannen, M. Y. (2013). From the Editors: How to write articles that are relevant to practice. Journal of International Business Studies, 44, 285-289