媒介分析(mediation analysis)の間違った理解

経営学や組織行動研究で、媒介関係(mediation)を伴うモデルや仮説は頻出である。媒介仮説とは、独立変数 X が、従属変数 Y に与える影響を、M が媒介するというもので、X → M → Y という因果関係を想定するものである。調整関係(moderation)と組み合わせた調整的媒介(moderated mediation)や、媒介的調整(mediated moderation)など、より複雑なものも増えている。媒介関係を扱うモデルや仮説が経営学や組織行動研究で重要な理由は、媒介関係が、ある現象の因果メカニズムもしくはプロセスを説明することになる場合が多いからである。この媒介仮説を実証的に検証するためには、適切なリサーチデザインと適切な統計分析が求められる。しかしながら、投稿論文の中には、この媒介仮説の検証方法を根本的に間違って理解しているのではないかと疑われるようなものがある。当然そのような論文はリジェクトされる。


媒介仮説が含まれた投稿論文で、もっとも眉唾なのが、横断的データ(クロスセクショナルデータ)を用いて、媒介分析を行っている論文である。このパターンの論文を目にしたら要注意である。念のために付け加えると、横断的データで媒介分析を行っているからといってすべてが間違っているのではなく、もちろん、適切な方法論に則り、媒介仮説が支持されたのかされなかったのか適切な結論を導いているものもある。では、どのような論文が、あやしい論文なのか。おそらく、あやしい論文がどのように出来上がるかというと、とにかく試行錯誤で統計分析を行い、3つ(以上)の変数で媒介関係が示唆させる結果を得たら、後付けでその媒介関係を説明した論文を作成するというものである。統計分析のみで、実際に媒介関係が存在すると信じ込んでしまい、なぜそうなるのかを考えて論文にするのである。


上記のように、媒介関係についての理解を欠く、もっとも深刻な間違いは、横断的データを用いて媒介分析を行う際に、媒介分析の統計学的手法によって因果関係が検証できると考えているケースである。これは明らかに間違いである。統計分析で媒介関係を示唆する結果を得ることは、実際に媒介関係が存在することと同値(必要十分条件)ではない。高校で習う必要条件、十分条件の分類でいうと、研究対象に媒介関係が存在しているということは、適切に横断的データを収集して統計分析したときに媒介関係が示唆される「十分条件」である。しかしその逆は違う。適切に横断データを収集して統計分析をしたところ媒介関係が示唆されたとしても、それは研究対象に媒介関係が存在していることの「必要条件」にしかすぎない。そもそも、横断データで得られる情報は変数間の相関関係のみである。よって、研究対象に媒介関係が存在しなくても、変数間の相関関係のパターンによっては、横断データの統計分析で媒介関係が示唆される結果が出ることは大いにありうるのである。それをもって媒介関係があると結論づけるような論文は大きな間違いを犯していることになる。


例えば、よく分からない説明を振りかざして媒介仮説を提示し、横断データの媒介分析によって、仮説が支持された、よって媒介関係が存在すると胸を張って主張している論文である。これではダメで、媒介分析を行う大前提として、X → M → Y が、論理的にもしくは理論的に正しくて、M → X とか、Y → M が、論理的もしくは理論的にあり得ないことを示しておかないといけない。例えば、X が年齢で、M が頭の回転の速さだとしよう。年齢が頭の回転の速さに影響することは理論的にも論理的にありうるので、X → M の検証は、たとえ横断的データであっても適切な分析を行えば可能である。一方、頭の回転の速さが年齢に影響を与えることは論理的にあり得ないので、いくら X と M の相関情報しか得られなくても、M → X の可能性を考慮する必要がない。いくら横断的データだといっても、因果関係の条件の1つである X が M に時間的に先行していることは明らかなのである。しかし、横断データを用いた眉唾モノの論文の多くは、本当に X → M → Y であることが説明されておらず、M → X とか、Y → M である可能性もあるので、統計的分析のみでは、媒介関係を検証することは不可能である。


上記とも関連するが、媒介関係の検証を行う場合の前提として、X → M → Y が独立した別の変数であることを示しておく必要がある。例えば、X と M が概念的に似ていて、似ているがゆえに横断的にデータを取った時に X と M のあいだに相関関係が生じていると考えられる場合は、統計分析で媒介関係を検証することは不可能である。これもよくあるケースだと思われる。例えば、職務満足度とコミットメント、エンゲージメントなど、すべてが類似した態度変数の場合、横断的に収集したデータでこれらの因果関係を検証することは不可能である。また、これは媒介関係に関わらない話であるが、同一人物からの回答を横断的に収集したようなデータ(クロスセクショナル&自己報告データ)では、必ず、共通方法分散(common method variance)の存在を疑わなければならない。例えば、たまたま回答したときの気分が悪いときは、すべての回答が低めのスコアになり、たまたま気分が良い時は、高めのスコアになる。回答を集約して統計処理をすると、変数間に相関関係が検出される。しかしこれは、変数間に真の相関があるからではなく、測定されていない第3の変数(気分)によってもたらされた擬似相関である。


統計学的に媒介分析をする際には、その手法によって種類は異なるが、さまざまな前提条件がある。その前提が崩れると、結論自体が誤ったものになりかねない。記述のとおり、データ収集や媒介分析を行う前に、理論および仮説としての因果関係が論理的に間違っていないということはほどすべての分析に共通する大前提である。そのうえで、媒介関係を適切に実証分析できるよう可能な限り適切なデータ収集と分析を行っているという前提を満たさなければならない。例えば、X、M、Y を測定する順番と時間間隔が、理論と整合的である(測定感覚が短すぎても長すぎてもいけない)。そのほかにも、X と M の間には交互作用が存在しない、測定の信頼性や妥当性が十分に高いなど、媒介分析を行う際の前提条件がいろいろとあるが、詳しくはAntonakis, Bendahan, Jacquart, & Lalive, R. (2010)や、Kline (2015)をはじめ数多くの論文で説明されているので参照されたい。

文献

Antonakis, J., Bendahan, S., Jacquart, P., & Lalive, R. (2010). On making causal claims: A review and recommendations. The Leadership Quarterly, 21, 1086–1120.
Kline, R. B. (2015). The mediation myth. Basic and Applied Social Psychology, 37(4), 202-213.