学際的理論構築の作法

経営学は基本的に学際的な学問である。経営学という独自の方法論が存在するわけではなく、経済学、心理学、社会学、人類学、政治学などから関連する概念や理論、方法論を借用することで、経営にまつわる現象の理解を志向してきたのである。よって、理論構築においても、異なる学問分野から理論や概念をもってきて統合することはよく用いられる研究方法である。これに関し、Shaw, Tangirala, Vissa & Rodell (2018)は、学際的な理論統合のポイントについて解説している。


まず、どのようなときに学際的理論統合を用いることが良いのか。Shawらによれば、学際的理論統合の目的は主に3つある。1つ目は、経営における新たな現象が出現したときなど、ある経営現象を的確に説明できる理論が存在しない場合に、新たな理論を構築しようとするという目的である。例えばある研究では、小さな出来事が大きな組織変革につながるような事例を説明するために、既存の経営理論にはなかったものとして、物理学や生物学で研究されてきた複雑適応系の理論を援用した。2つ目は、特定の現象についての理解や思考をより透明化すなわちクリアにするという目的である。例えば、既存の理論で説明しようとすると常に一定の例外事項が生じる場合に、それを説明するために他分野の理論を既存理論と統合するようなケースである。ある研究では、なぜ成果主義が常に良い結果を生み出さないのかを理解するために、経済学と心理学の理論を統合することで解決しようとした。3つ目は、特定の経営現象を、これまでとは全く異なる視点から眺めようとする目的である。例えばある研究では、組織や人々が活動するタイミングを理解するために、全体性、リズム感、調和などを理解する音楽理論を援用しようとした。もっとも、これらの3つのパターン以外の目的もあるとShawらは補足している。


では、学際的理論統合を行うのに効果的な方法はなんだろうか。Shawらによれば、1つ目のポイントとしては、特定の現象を説明するさいに、異なる理論や学問分野を用いる場合の類似点と相違点を明らかにするということである。それぞれの理論や分野は、どのような前提のもとで展開されているのだろうか。その前提の類似点と相違点は何か。例えば、人間行動について、経済学と心理学はどのような前提を置いているのか。それを理解することによって、なぜ、異なる理論や分野が同一の対象に対して相反する予測をするのかの理解が可能となり、それらを統合するとどのように説明力が増すのかが明らかになる。2つ目のポイントは、異なる理論や分野の守備範囲の違いを意識することである。例えば、ミクロな個人レベルは心理学の守備範囲となるが、集団や組織のようなマクロレベルになると社会学の守備範囲になってくる。しかし、どこかにこれらの守備範囲が交差する節合点がある。そこに、それらの理論を統合して新たな理論を構築する機会が出てくる。3つ目のポイントは、ある分野が別の分野から借用して発展し、その別分野がさらに当該分野から借用して発展するという相互作用を意識することである。


さらに、学際的理論統合を行うさいに注意すべき点として、Shawらは以下の点を挙げている。まず、異なる理論や分野を統合しようとするさい、その理論や分野の前提に適合性があるかということである。もし、異なる分野の前提が対立していてお互いに相容れないものである場合には、理論統合することは適切ではない。なぜならば、片方の理論の前提が、他方の理論の前提を否定してしまうからである。また、理論統合を行う際には、読者とのコミュニケーションをより透明化する必要がある。例えば、異なる分野や理論によって、対象に対して異なる前提を置いていることは当然であるが、さらに異なる用語、概念、概念定義を用いていたりする。よって、これらを明確かつ明示的に示したうえで議論を展開し、理論統合を図っていく必要があるのである。

文献

Shaw, J. D., Tangirala, S., Vissa, B., & Rodell, J. B. (2018). New ways of seeing: Theory integration across disciplines. Academy of Management Journal, 61, 1-4.