説明の重要性

経営学に限らず、理論の重要な役割は、現象を「説明」することである。しかし、この「説明」によって付加価値を出すことはなかなか難しい。新しい説明は「発見」である。発見は、なにか新しい事実を見つけることのみを指すわけではない。むしろ、経営学を含む社会科学の場合は、すでに知られている現象について、異なる説明の仕方を見つけることのほうが大切である。これが、通説を覆す説明ということになる。


優れた説明というのは、例えば、ある社会現象について、本人たちは無意識的に何らかの行為をしているのであるが、実はそこにはかくかくしかじかの法則性が存在しているということを解き明かすような場合である。当の本人たちが、その説明をきいて、「そんなことまったく考えたことがなかった」「なるほどそうだったのか」と驚くと同時に感動さえするようなものだと理想的だといえよう。


心理学的なもので具体例を挙げると、金融や投資は従来は経済学を中心に研究されてきたが、それだと、私たちが投資で経験する出来事について、なんとなくしっくりと来ない。どうして投資で損をしてしまうのかといったものだ。しかし、行動経済学とりわけプロスペクト理論が登場したことによって、私たちが実際に投資を行うさいに取りうる行動に対する、従来の経済学とは異なる新しい説明が可能になった。それによって、私たちがなぜ投資で失敗するのかがうまく説明できるようになったのだ。


別の例を挙げると、世界的に有名な「モナ・リザ」がなぜ世界的に有名なのかを説明しようとする際、常識的な発想であれば、レオナルド・ダ・ヴィンチの才能や、モナ・リザの絵の特徴にその原因を帰属させて説明しようとするだろう。しかし、ワッツ(2014)によれば、「単なる偶然にすぎない」というのが常識とは異なっているが妥当な説明である。その証拠は、モナ・リザは20世紀になるまで、あまり目立たない絵であったという歴史家によって明らかにされた事実であり、ある盗難事件をきっかけに知名度が上がっていったという歴史的事実である。


これまで知られていなかった新事実を発見しようと努力することも大切だが、もっとインパクトがあるのは、上記の2つの例のように、「すでによく知られている現象」について、説得力のある「異なる説明の仕方」を「発見」することなのだと思われる。


現象と説明の組み合わせを「よく知られているか新しい現象か」と「よく知られた説明か新しい説明か」の2軸で分類するならば、「よく知られている現象に対するよく知られた説明」「新しい現象に対するよく知られた説明」「よく知られている現象に対する新しい説明」「新しい現象に対する新しい説明」の4つになる。最初のものは学問としてほとんど付加価値をもたらさないことは自明である。2番目については、なにか新しい現象なり事実なりを発見したという意味での価値はあるが、既存の学問的知識を応用したことににすぎない。残り2つが「(通説を覆すような)新しい説明」という意味で学問的価値が高いが、「新しい現象に対する新しい説明」は、受け手のほうが馴染みが薄い現象のためにピンと来ないことが多く、その面、インパクトが弱い。よって、受け手がよく知っている現象に対する新しい説明が、驚きもインパクトも一番大きいのである。