マネジメント研究の目的

組織のマネジメントや職場での部下のマネジメントような、いわゆる「マネジメント」の研究は、いかなる目的、目標があるのだろうか。マネジメント分野の研究者は、何を目標に日々研究を進めているのだろうか。当然、学問であるから、なんらかの発見を得たり、法則性を打ち立てたりすることを目的・目標としている。しかし、医療や科学技術のように「これまでまったく知られていなかったものが発見された」というような類の研究成果はほとんど出ないだろう。


もちろん、これまでの通説を覆すとか、はっと思わせる、驚きを伴う、といったような研究成果は大切である。ただし、自然科学での偉大な発見と違うのは、マネジメント分野の研究成果のほとんどは、実務家が組織やビジネスでのマネジメントの実践を通じて、薄々感づいていること、あるいは肌でわかっていることが、よりクリアな形で示されるというものであろう。あまり意識していなかったけれども、言われてみれば確かにそうだ、確かに重要なことだというように、実務家の人々にも「気づき」を与えることができるようなものが優れた研究成果だといえるだろう。


つまり、マネジメント研究が追いかけようとするのは、マネジメントをするうえで大事なことではあるが、多くの場合、無意識的に習得しており、意識にのぼってこないような現象、あるいは、なんとなく大切だということがわかるし、やってみればできるといったものであっても、言葉にしたり論理的に説明するのは難しいといった事柄とか法則性だ。「暗黙知」という言葉で表してもよい。こういったものを、社会科学の基準でみてあるていど客観的(妥当性の高い)な証拠とともに、完結で、論理的で、かつわかりやすいかたちに整理された「理論」「モデル」(知的構築物)を作っていくのが、マネジメント研究の目的であり、目標であろう。


実践で無意識的にやっていたことが、論理的、明示的な形で整理されることは、経験のある実務家にとっては「頭がすっきり」するとともに、自分がやってきたマネジメントの実践の適切性(あるいは不適切生)を理解し、説明できることになるので、その点で有用なことは多いはずである。なんとなくやっているという状態よりも、なぜそうなのか理解してやっているほうが納得感も成功確率も高いだろう。また、実務経験がまだ浅い人々にとっては、簡潔、論理的、わかりやすいかたちで整理して伝えたり教えたりするほうが、マネジメントの実践に活用し、スキルを高めることができる度合いやスピードが高まるだろう。そういった知的ツールをたくさん生み出し、実務家が使いやすいように整理していくのが、マネジメント研究の目的の1つなのである。