経営学研究者がするべき仕事

経営学研究者は、文字通り経営学の研究をすることが仕事であるが、具体的にどのような研究をすることが求められるのであろうか。


現実の企業経営で起こっているそれぞれの問題は、一回性かつ固有の問題であり、どれ一つとして同じ問題は存在しないといってもよい。であるから、既存の経営学的原理や法則がそのまま当てはまることはまずない。現実の問題は、様々な要素が複合的に絡まった結果として生じているものであるからである。しかし、そういった問題の多くは、様々な視点から、既存の経営学の理論や枠組みを組み合わせることによって解決の糸口を見つけだせることが多い。


経営学というのは、これまで発見されたあるいは構築された様々な理論や法則が体系的に整理されたものである。これらを深く勉強して身につけたならば、現実の経営現象を説明したり、経営問題への解決策を提案できたりするわけである。しかしそれは、経営学研究者がメインで行う仕事ではない。


経営学研究者が行うべき仕事は、新しい理論を作ったり、今まで知られていなかった法則性を発見したり、あるいは既存の理論や法則を否定する証拠を見つけたりすることである。既存の経営学の体系に新たな要素を付け加えたり、体系の一部を塗り替えたりする作業であるといってもよい。これは大変にチャレンジングな仕事である。


経営学の特定の分野全体に大きなインパクトを与えるような発見、例えばこれまで通説と思われていた考え方を覆すような研究成果、これまで注目されてこなかった現象の理解など、「新しい理論」「新しい枠組み」は、教科書の内容をも大幅に塗り替えることになるが、そう簡単にできるものではない。ごく一部の天才がなし得る偉業であるといってよい。よって、多くの経営学研究者が行う成果は、かなり地味で、体系の一部を改善するような仕事であるといってよいだろう。


しかし、そのような地味な研究であってもそれが世界中で行われて地道に蓄積されていくことによって、経営学の体系も漸進的に進化していくのである。