ストーリーテリングのメカニズム

ビジネスや経営の世界でも「ストーリー(物語)」を活用することについての効用への注目が高まっている。では、「ストーリー」もしくは「ストーリーテリング」がいかなる形で効果をもたらしうるのであろうか。中原・長岡(2009)は、ストーリーの効用を理解する手がかりとして、まずジェロム・ブルーナーの説を紹介している。


ブルーナーによると、人間の思考形式や認知作用には「論理・実証モード(paradigmatic mode)」と「ストーリーモード(narrative mode)」がある。論理・実証モードは「科学的モード」「合理的モード」であり、科学者やビジネスパーソンが最も重視している思考形式で、「ある物事が正しいのか、間違っているのか」を問い、厳密な分析を通して物事の真偽を明らかにしようとする。一方、ストーリーモードは「ある出来事と出来事のあいだに、どのような意味のつながりがあるか」を注視する思考形式で、物事が正しいか、何が間違っているかはあまり問題にならず、「それは現実味に富んでいるか」「それは、腑に落ちるかどうか」が重要とされる。


中原・長岡によれば、ドナルド・A・ノーマンも同様のことを言っており、論理は、結論を特定の文脈から切り離したり主観的な感情に左右されないようにするのに対し、物語は、文脈を捉え、感情を捉えるという。論理は一般化し、物語は特殊化するわけである。


また、そもそもなぜ人間はストーリーから理解を進めることができるのかという問いについて、中原・長岡はソーンダイクの「物語文法」とシャンクとエイベルソンによる「スクリプト理論」を紹介する。ソーンダイクは、人間が物語を記述するための抽象的ルールを頭の中に持っていると仮定し、それらを「①設定、②テーマ、③プロット、④解決」という物語文法で表現した。この4つの大項目にしたがって「誰が、いつ、どこで、どのような事件に巻き込まれ、どんなトライアルを行い、どういう結果が生まれたのか」を把握しようとする。人々は特定の物語に出会うたびにこのテンプレートに物語を当てはめ、理解を進め、必要な場合には記憶をする。


スクリプト理論では、人間の心の中に、特定の状況に応じた「台本」もしくは「劇の台本のような物語(=スクリプト)」が無数にストックされており、特定の物語については、既存のスクリプトと照らし合わせたり、自分にとって利用しやすいように書き換えたりして物事を理解すると説く。


要するに、「物語文法」も「スクリプト理論」も、「人間はストーリーを理解する構造を有しており、それを用いて理解を進める」ということを示す点で共通している。人間は心の中に物語をもっており、物語を通して物事を理解しようとする動物なのだと中原・長岡はいうのである。