モンティ・ホール問題とは、条件付き確率を論じる際に頻出の問題で、確率論的に正しいことと人間の直感とが一致しないことの例としてよく話題になる。問題の内容は以下のとおりである。
「プレーヤーの前に閉まった3つのドアがあって、1つのドアの後ろには景品の新車が、2つのドアの後ろには、はずれを意味するヤギがいる。プレーヤーは新車のドアを当てると新車がもらえる。プレーヤーが1つのドアを選択した後、司会のモンティが残りのドアのうちヤギがいるドアを開けてヤギを見せる。ここでプレーヤーは、最初に選んだドアを、残っている開けられていないドアに変更してもよいと言われる。プレーヤーはドアを変更すべきだろうか?」
wikipediaより引用
ここで、プレイヤーに選択したドアが当たりである確率は、残されたドアが2つなので、直感では2分の1に思える。しかし、条件付き確率の論理を使うと、答えは3分の1になるので、プレイヤーはドアを変更することで、当たる確率が2倍(3分の2)になるというのが定説である。つまり、直感解の2分の1は間違いで、正解は3分の1ということである。これ以降、正解を「模範解」としよう。
しかし、豊田(2016)は、モンティ・ホール問題の直感解の2分の1は、間違っているわけではないと主張する。むしろ、プレイヤーがその場で2分の1と判断することのほうが自然であり、それが正解だというのである。そのロジックは何だろうか。
条件付き確率との関係が深いベイズの理論では、事前確率を設定し、新たなデータを吟味して、事後確率を求める。モンティ・ホール問題では、3つのドアのそれぞれに当たりが出る確率は3分の1とするのが事前確率で、その後、司会がドアを1つを開けた事実がデータであり、そのデータから、条件付き確率(そのドアがはずれであったときに、選んだドアが当たりである確率)、すなわち事後確率を求める。このようなプロセスを踏んで、模範解である3分の1を導いていくわけであるが、実は、このプロセスの中で、気づきにくいもう1つの事前確率が設定されているのである。それは、選んだドアが当たりの時に、司会者が特定のドアを開ける確率である。これを2分の1と設定すると、模範解である3分の1が導かれるので、これを正解とし、直感解を誤りとするのである。
豊田によれば、模範解の計算に用いられる2つ事前確率のうち、3つのドアのそれぞれに当たりが出る確率を3分の1とするのは、まあ妥当であるとしても、残りの選んだドアが当たりの時に、司会者が特定のドアを開ける確率を2分の1とすることは再考すべきである。本当に2分の1でよいのかということである。むしろ「確率は不明である」とするのが適切ではないかということである。例えば、2つのドアがはずれのとき、司会者はランダムにどちらかを開けるのではなく、常に自分の手前にあるドアを開けるかもしれないというような様々な可能性を考慮するのである。ベイズ統計では、このように、事前確率が自明でないときに、特定の確率分布を用いる。そして、豊田は、そのとき用いる分布として無難なのが、無情報的確率分布としての一様分布だという。一言でいえば、2分の1とか、3分の1とか、あるいは6分の1とか、事前確率が様々な値であることの「確率」が等しいと仮定するのである。
上記の手続きを踏むと、プレイヤーに選択したドアが当たりである確率の値の「確率分布」が生成される。これがベイズ統計でいうところの事後分布である。この確率分布を読み解くことによって、モンティ・ホール問題に対する何らかの結論を導くことになる。豊田によれば、模範解である3分の1は、事後分布の「中央値」である。しかし、分布の形によっては中央値が分布を代表する値であるとは限らない。実は、直感解である2分の1は、事後確率としてはもっとも高い確率を与える値なのである。要するに、モンティ・ホール問題について、すぐには気づきにくい「残りの選んだドアが当たりの時に、司会者が特定のドアを開ける確率」を、2分の1ではなく不明であると仮定して、ベイズ統計的な推論を行うと、直感解である2分の1である確率がもっとも高い、ということになる。このことから、豊田は、2分の1が正解なのだと解説するのである。