生物は流れている

更科(2019)は、生物の体は物質の流れだという。例えば、自動車と生物を比べてみるならば、自動車は動かすためにはエネルギーが必要で、エネルギーが流れているといえるが、自動車という物質は流れていない。一方、生物の場合は、エネルギーだけでなく物質も流れていると更科はいう。つまり、生物の身体には、いつも物質が流れ込み、そして流れ出ていくというのである。であるから、生物の体の多くの部分は、いつも入れ替わっている。

 

生物では物質が流れているのに、生物は存在し続けるし、全体の形はあまり変わらない。更科によれば、このように流れの中で形を一定に保つ構造を、散逸構造といい、プリゴジンが提唱した概念である。散逸構造をしているものには必ずエネルギーや物質の流れがあるといい、流れがあるのに定常状態であるというのが散逸構造の特徴だという。

 

また更科は、生物は平衡状態ではないという。ミクロな世界では、平衡状態でも動的な状態ではある。例えば、水の入ったグラスは静的に見えても、分子レベルで見れば、分子が活発に動き回っている状態である。しかし、空気に飛び出す液体中の水分子と、液体に飛び込む空気中の水分子の数が同じなので、動的であっても平衡状態だと更科は説明する。つまり、平衡状態は動的な状態だが、そこには流れがないと更科はいうのである。

 

さらに、平衡状態の場合はエネルギーの流れもないという。平衡状態は見かけ上は何も起こらないので「死の状態」とも呼ばれることもあるのに対し、明らかに生物は平衡状態ではない。それはつまり、生物には流れがあるということであり、エネルギーや物質が流入して生物の体を作り、そして流出していくのだと更科はいう。つまり生物は、生きている間はほとんど形が変わらないにも関わらず、非平衡状態だというのである。

 

更科によれば、生物以外で散逸構造をしているものはたくさんある。例えば、コンロの炎はエネルギーの流れがある非平衡状態なのに、定常状態としての炎の形が保たれているので散逸構造である。海の潮も変わり目の渦や台風もそうである。散逸構造をしているものの中でも、生物は奇跡的に複雑で、奇跡的に長い期間存在し続けてきている。それは偶然だったのかも知れず、散逸構造をしているものの中で一番複雑で長生きなのが生物と呼ばれるようになっただけかもしれないと更科は考察している。

文献

更科功 2019「若い読者に贈る美しい生物学講義 感動する生命のはなし」ダイヤモンド社