水の性質

美宅(2002)は、分子生物学の視点から、偉大な水の性質について解説している。すべての生物は水なしでは生きていけない。そもそも生命は海で誕生し、水の中の化学反応でできた巨大分子が生命のもとになったと考えられており、非常に長い進化を経た現在の生物もすべて水を触媒にしているのだという。


化学的に見ても水はかなり特異な分子で、水の中で生命が生まれ、すべての生物が大量の水を要求しているのには必然性があるように思われるという。このような視点に立ち、美宅は水の性質を以下のように整理している。

  1. 水はいろいろな物質をよく溶かす。水は多くの分子を溶解する。金属のイオンをよく溶かす。水以外の触媒でこれほどイオンを溶かすものはほとんどない。アルコールなどある程度極性のある有機溶媒もよく溶かす。
  2. 水は極性基をもたない有機触媒とは混じりあわない。いわゆる水と油の関係である。
  3. 水の密度が液体の水より氷のほうが小さいため、固体である氷が液体である水に浮かぶ。
  4. 水は分子量の割に高い凝固点と沸点をもっていて、常温では液体である。比熱が大きく、凝固や沸騰の潜熱も大きい。


橋元(2010)は、水が持っている「粘り」について説明している。粘りの意味は、水分子の極性が、水分子同士をくっつけるということである。1つの水分子の帯電した水素原子の部分が、他の水分子のマイナスに帯電した酸素原子の部分と互いに引っ張りあい、クラスターという緩く結ばれた鎖のような構造をとる。磁気を帯びたクリップが数珠つなぎに繋がるようなイメージである。ちょっとした熱運動によって分子同士はすぐに離れ、またすぐにくっつく。


分子の極性による水素結合は弱いが、そのことが逆に柔軟性を生んでいるという。共有結合のような強固な結びつきは、コンクリートにかためられた石柱のように融通がきかないのである。