生体において循環するもの、流れるもの

美宅(2002)は、生体分子の構造から生命現象を解明してきた分子生物学の視点から、「情報」「機械」「エネルギー」という生体分子の3つの機能を中心にして生命を解説している。


まず、生物はすべて「分子」でできている。そして、生命という状態をいかに形成し、いかに維持するかというしくみはゲノムの情報(全遺伝子)で決められている。たとえば、人をつくるすべての遺伝情報が、ヒトゲノムに含まれているのである。


そしてたくさんの分子レベルの「機械」がはたらいて、生命の秩序をつくりあげている。その秩序を保つために、生体内でつねにエネルギーの変換が行われている。


美宅は「生物ではエネルギー、物質、情報が体内を流れたり、循環している」という。生物では、エネルギーや光が化学物質というかたちで取り込まれ、それは消費されて熱エネルギーとなって流れ出す。それに対し、物質は体の中にとどまる。しかし、物質もいずれは代謝されて体外に排出される。細胞レベルでみても、細胞は必ず死ぬが、新しい細胞が生み出されて、体全体は維持されている。このときに、物質は流れていくが、遺伝情報は体の中にとどまっているのである。