創造的瞬間=悟りの瞬間

嶋口ほか(2008)において、創造的瞬間とアンビションとが互いに支えながら新しい現実を作り出す駆動力となるメカニズムについての考察がある。


創造的瞬間とは、時間の流れが一瞬止まり、今まで自分を縛り付けてきたフレームの力が弱まり、逆に内的なイマジネーションやアソシエーションが活性化される瞬間(森俊夫「未来の想起」)である。


松下電工の故三好俊夫氏の「時代は流れているから、流れをみてやっていくと誰もが言うわけです。しかし、そこには谷間があって、そこはもう1つ跳ばないといけない。跳ぶのが企業の経営者なのです」という言葉を紹介している。


また、事故で両足を失った人が、水の中で悪戦苦闘して新しい泳ぎをマスターした「創造的瞬間=悟りの瞬間」の話を紹介している。自由形の場合、水の粘性(抵抗力)を推進力に変えて泳ぐわけだが、足を失った人の場合、身体の周りに水の動きを作りだし、その動きに乗るようにして身体を横滑り風に移動させているという。みずから作り出した水の流れに乗ることは可能であり、この動きの継続を獲得したときが「創造的瞬間」であり、このときはじめて環境(水の流動性)が形成されのだという。これは「泳ぎたい」というアンビションが作り出したものだ。


このように「アンビション」が駆動力となって創造的瞬間につながる場合、あるいは、たまたま創造的瞬間に出会えたことで偶然、アンビションが生まれるというケースも紹介している。ようするに、創造的瞬間という「偶然」と、アンビションという「必然」が揃うことが大切なのだと示唆するのである。