易の構成

川村(2008)によれば、易は、この世の森羅万象は8つの要素で成り立つとし、それぞれに自然や人間関係、あるいはその性質・性状などをあてはめ、それで私たちの周りに起こるあらゆる現象を解明し説明しようと試みたものである。その核となるのが、陰陽の考えかたである。由来は、日光に向かっている側を「陽」、日光に背を向けている側を「陰」ととらえたものである。

 

易経では、陰と陽は互いに対立しながらも、互いに相手を必要とし、ある面ではお互いが相手側の存在によりかかった共存の関係であると川村は説く。つまり、一方が欠ければ他方も成立しない相関関係にあるわけである。古代の人々は、明らかに2つの相反する側面が互いに対立しながら、また相互に依存し、絶えず変化していることに気づき、対立、依存、消長、転化が自然界の法則でもあることを発見したのだという。

 

中国古代の独創的な哲学理論である陰陽学説では、世界を物質の総合体と捉え、宇宙の一切の事物はその内部に陰陽の対立を含みつつ、発生・発展・変化を繰り返し、すべては陰陽二気の対立と統一の表れだと認識する。なお、具体的事物が陰に属すか、陽に属すかは相対的なものであって、絶対的なものではなく、時間の推移につれ、運用範囲の違いにより、しばしば転化する。西洋で易が「変化の書」とされるゆえんがここにあると川村はいう。

 

易の基本要素としての八卦の成り立ちは以下のように説明される。まず、太極というのは、世界万物の生ずる根源で、宇宙の本体で、要するに絶対無二の宇宙の根源である。その太極から陰と陽の2大<気>が派生する。陽気は上昇して天となり、陰気は下降して地となる。つまり、天と地ができるわけで、これを両儀という。

 

次に、この陰陽の本質をさらに詳しく解明すると、陽にも「陽の陽」と「陽の陰」があり、陰にも「陰の陽」と「陰の陰」がある。これを四象という。「陽の陽」は老陽として夏、 「陰の陽」を老陰として冬とし、「陰の陽」を少陽として春、「陽の陰」を少陰として秋とするならば、四象は時の流れも示す。この四象の上に更に陰陽を加えたものが八卦(乾・兌・離・震・巽・坎・艮・坤)である。

 

八卦には、卦象と卦徳がある。卦象は、<象>すなわちシンボルであり、最も大切なのが自然現象としての「天・沢・火・雷・風・水・山・地」であるが、それぞれの性状は次々と複雑になり多岐に渡ると川村はいう。卦徳は、自然などの卦象とは異なり、卦(本体)のはたらきを示すものである。「健・説・麗・動・入・陥・止・順」である。

 

なお、川村によれば、易の運命感は徹底しており「すべて自分で切り開け」と教える。福は自分で探せというのが中国の運命観で、受け身の宿命観とは対極をなす。なので、易の真髄はあくまでもたくましい健康な楽天主義である。興亡を限りなく繰り返し、何度も落ち込み、その都度這い上がったものだけが勝つというしたたかな自信が背景にある。人生くよくよしたところで始まらないという陽気な明るさが身上だというのである。いったん易に親しめば、この三千年に及ぶ知恵の結晶に、人間を観察し知り尽くしたあげく、ついに到達した達人の眼を感じないわけにはいかないと川村はいうのである。

文献

河村真光 2008「易経読本―入門と実践」光村推古書院