経営組織論(1部)

変動給与と固定給与

ケース

全く同じビジネスで、同じ商品を扱うA社とB社がある。唯一の違いは、両者の給与の仕組みである。営業職の社員の給与に関して、A社は固定給である。B社は歩合給である。つまり、A社は業績に関わらず給与は安定している。B社は業績がよければ給与はあがり、悪ければ給与は下がる。


仮に、A社とB社の移動は自由にできるものとすると、どのタイプの労働者がA社に、どのタイプの労働者がB社に移動するようになるか。そして、その結果、A社とB社を比べた場合、どちらがよい業績をあげることができるか。

給与の支払い方法
  • 投入に基づく支払い(多くは固定給)
  • 算出に基づく支払い(多くは変動給)
変動給の選抜効果とモチベーション効果
  • 変動給は、ハイパフォーマーをひきつけ(企業に留め)、ローパフォーマーを遠ざける(去らせる)
  • 変動給は、会社の求める業績をあげる(企業目的に沿った成果をあげる)ことへのモチベーションを高める

固定給のみの企業と歩合給のみの企業しかないとする。歩合給の企業は、一人当たりの収益から業績測定コストを差し引いたすべてを給与として支給する。固定給の企業は、一人当たり平均収益を固定給として支給する。すると、固定給の会社で平均以上稼ぐ人は、歩合給の会社に移動しようとするインセンティブが生じる。


固定給の企業で最も稼ぐ人が歩合給の会社に移ったら、固定給の企業の一人当たり平均収益も落ち、固定給の水準も落ちる。もし、業績測定コストがゼロの場合、次から次へと固定給の企業から歩合給の企業に人が移動してしまう。


ところが、歩合給には業績測定コストが生じるため、業績測定コストが高まれば高まるほど、歩合給から差し引かれる金額が増大する。よって、本人の能力からみて、固定給の企業の給料と、歩合給の企業に移った場合に期待される給料が等しくなる点が生じる。その点以上の能力を持つ人物は歩合給の企業に流れ、それ以下の人物は固定給の企業に流れることになる。

ケース:タクシー運転手の給与
  • タクシー会社が、車を貸与し、ドライバーがガソリン代を負担する。売り上げの100%がドライバーの手に渡る。
  • タクシーのレンタル料を低く設定する代わりに、歩合を50%とする(売り上げを会社とドライバーで折半する)
  • タクシー会社はドライバーに固定給を払う。車やガソリン代は会社負担。
ケース:メーカー営業職の場合
  • 製品の粗利が10%の時に、売り上げの10%を営業職の歩合給とする。ただし、営業職は、固定費用として営業権もしくはオフィス賃借料を会社に前もって支払う。
  • 10%の代わりに、8%に歩合給を落として、企業利益の増大を狙う。
  • 10%の代わりに、11%の歩合として、営業職のモチベーションアップを図る。

ポイント

  • 収益の100%の歩合(売上げで見ると100%ではない)にしたときに最も企業業績を高める(固定収入を限界まで吊り上げることにより)。
  • その根拠は、100%以下になればなるほど、労働者にとっての仕事の価値が低くなり、より多く売ろうとするインセンティブが低下する。よって企業は労働者から利益を引き出せなくなる。歩合が高まれば高まるほど労働者のインセンティブが高まり、努力する。しかし、歩合100%を超えてしまうと、労働者が売れば売るほど企業は損をする。よって、利益を最大化できない。利益が最大化する点は歩合が100%の点である。

変動給・固定給(投入に基づく給与)とリスク

  • 変動給(結果に基づく報酬)の短所は、測定コストが高いことである(とりわけ質的なアウトプットの測定コスト)
  • 測定コストを節約するために、量的な測定に傾くと、労働者は量を追求し質を軽視するようになる
  • 時給で支払われる事務職と、年俸で支払われる管理職の違い(定型的業務を行なう事務職は時間基準、非定形的業務を行なう管理職は仕事基準)
  • 報酬の変動リスクは企業と従業員のどちらが負担するべき?(一般的には、リスクを管理しやすい企業)。固定給はアウトプットの変動リスクを企業が負担することを意味する。

短期および長期のインセンティブ

業績給とリスク

インフォーマティブ原理
http://d.hatena.ne.jp/tomsekiguchi/20060113

インセンティブ強度原理・モニタリング原理
http://d.hatena.ne.jp/tomsekiguchi/20060114

均等報酬原理
http://d.hatena.ne.jp/tomsekiguchi/20060115