昇進によるインセンティブ設計と、業績給によるインセンティブ設計の比較

昇進によるインセンティブ設計の長所

    • 昇進インセンティブの場合、役職に応じて賃金を固定することにより、インセンティブとしての報酬総額が決定し、それを従業員に約束することになるので、企業が不当に従業員の報酬を抑える可能性を低める。
    • トーナメントの最後のほう(つまり高い役職)の賃金を魅力的にすることで、トーナメントの下のほう(ヒラ社員)の賃金を抑えてもインセンティブを維持することができる。
    • 上記のような仕組みにすれば、従業員は最後のほうの賞金をめあてに、長期的に企業にとどまる。
    • 昇進決定に持ちいる評価情報は、従業員の序列情報だけでよい。序列情報(従業員の順位付け)は、業績や成果の絶対情報よりも低コストで手に入る(つまり図りやすい)
    • 上司の報酬が企業業績とつながっている場合は、上司は、適切な部下を昇進させる方向に動機付けられる。つまり、特定の部下からの賄賂に影響されにくい。なぜならば、その昇進の適切性が、将来の自分の賃金に跳ね返ってくるからである。
    • 能力を蓄積した従業員が、その能力を必要とする上の職位に昇進させるルールにすれば、従業員の能力向上のインセンティブとなり、企業業績にもつながる。これが成果主義のみで昇進機会がないと、同じ職位での業績向上ばかりに目がいくことになり、別の職務で必要な能力を蓄積させるインセンティブを持たない。
    • 敗者復活も多少可能で、トーナメントで上にいくほど、賞金が高い場合(遅い昇進の場合)、そのときに備えて、長期的視点から能力を蓄積していこうとするモチベーションにつながる。

昇進によるインセンティブ設計の問題

    • ポストの数には限りがあるので、インセンティブ効果を高めるためにポストを増やすということはできない。やればポストのインフレを起こしたり、組織の機能と矛盾した職位構造になってしまう。
    • ピーターの法則。昇進で勝ち進んで自分の実力相応のところに勝ち進んでしまった場合にモチベーションが止まる。上の職位、重要な役職になるほどインセンティブを失う。
    • トーナメント過程で同じレベル間の足の引っ張りあいが起こり、優秀なものほど叩かれ、脱落し、それが企業業績に影響する。
    • 昇進決定方法の設計によっては、現時点での最優秀者が勝ちあがっても、それは次の職位を遂行する能力という意味での最優秀者であるとは限らない。

業績給によるインセンティブ設計の長所

    • ポスト不足で十分な昇進インセンティブが用意できない場合に、別のタイプのインセンティブを提供することになる。
    • 採用の時点から一貫して用い、労働市場が流動化しているならば、業績をあげる自信のある者のみが入社し、業績をあげる自信のあるものがモチベートされ、企業に残り、そうでないものは入社しない、もしくは企業を去る。そのことにより、企業全体がモチベーションの高い社員ばかりとなる。
    • 業績をあげ続ける限り、高い水準の収入が得られるため、インセンティブが毎期継続する。

業績給によるインセンティブ設計の問題

    • 成果や業績に基づいた賃金決定の場合、成果や業績の測定に困難が伴う(コストがかかる)。
    • 成果や業績を評価する上司が、正確にそれを実行しようとするインセンティブに欠ける場合が多い(寛大化傾向になりやすい)。
    • 部署全体の業績が不変な場合には、部下から上司への賄賂による共謀が起きる可能性がある(特定の部下の業績だけ高く評価し、それを埋め合わせるために他の部下の業績をやや低めに評価する)。
    • 成果や業績をあげる自信もなく、じっさいにあげられない社員が辞めずに残ってしまう。その社員のモチベーションが下がり、職場風土に影響を及ぼす。
    • 短期的業績志向に陥り、能力の蓄積努力がおろそかになる。
    • 業績測定に目標達成度を用いる場合、ラチェット効果(今期の目標が来期の目標につながっていく)を気にする従業員が、目標を低めに設定する。
    • 企業側が、測定が困難なことを逆手にとって、従業員の業績を低めに評価し、会社の利益を確保しようとする可能性が残り、それが従業員からの不信につながる可能性がある。