手離すことで流れを味方につける

桜井(2010)は「人間は柔らかく生まれ、硬くなって死んでいく」という。得る一辺倒で手離そうとしないから思考も体もどんどん硬くなり、身動きがとれなくなって死んでいくというのである。裏を返せば、柔らかく生きていくには手離すことが大切だということになる。それが自分らしく生きることで、自然の流れに沿って生きることにつながるのだという。人間の真の強さは、そのような柔軟さの中にこそ秘められていると桜井はいう。


そもそも、世の中のあらゆることは移り変わり、流れている。砂浜に打ち寄せる波のように、一時として同じものはない。人が「生きる」ということは、そんな流れの変化に対応するということなのだと桜井はいう。例えば、人が生きていく中で、周囲の流れを呼んだり、的を射たりする感覚はとても大切なものだといううのである。


では、流れの変化に対応するために、どのような心構えを持てばよいのだろうか。桜井によれば、そのうちの1つは、円の感覚を持つことである。自然の世界には循環する流れが存在する。風の流れ、川の流れ、潮の流れのように、いろいろなものが循環し、流れている。円とは真理の形であり、人生にはいいことも悪いこともあることを示している。いいことも悪いこともすべてをつなげてぐるりと円を描くようにすれば、とらわれもなくなると桜井はいう。


円のような循環する流れを前提とすれば、得たものは必ず失う運命にあるといえる。桜井は、「終わりは始まり」であり、何かを失っても、別の何かを得ることの始まりとなると指摘する。自分に関していえば、自分を捨てると新しい自分を得るということになる。よって「手離す」ことが大切なのである。「入れたものは出す」というのが自然の摂理であるから、自分で獲得したあらゆるものは、手離す運命にあるというわけである。「手離す」ことによって視界が晴れ、視野も広がっていく。手離さなければ見えてこないものがこの世の中にはたくさんあるのだと桜井はいうのである。