賃金理論1

賃金の経済学

当然ながら世の中には、業界や職種、あるいは属する会社によって給料が高かったり低かったりする。そしてそれはいつもサラリーマンの関心の的となる。では、どのようにして給料の格差が発生するのだろうか。いろいろな説が考えられるが、ここでは、もっとも古典的な経済学的アプローチによって考えてみよう。


アダムスミスの見えざる手もしくは需要と供給の関係から紐解くと、賃金水準(あるいは賃金相場という言葉のほうが適切かもしれない)は、労働需要と労働供給の均衡状態として決定される。例えば、ある職種や業界の賃金水準が高ければ高いほど、その職種や業界の志望者が増える。逆に言えば、人気や知名度の低い職種や業界の場合、あるいは人手不足な職種や業界の場合、志望者を増やすために賃金水準を上げることになる。反対に、ある職種において人余りが起これば、労働供給が労働需要を上回ることになるので、賃金水準を下げても志望者を確保できる。もちろん、このような相場決定の仕組みは、経済学が仮定するように、労働移動や情報の面などにおいて労働市場が効率的に機能しているという前提である。


この理論によるならば、ある職種や業界の賃金水準(相場)は、そこでちょうど需要と供給が均衡しているということになる。例として、賃金が高いと言われる銀行と、それよりも低いと思われるメーカーとの賃金格差を考察してみよう。経済学的な賃金相場の理論が正しいとするならば、銀行で現状よりも賃金水準を落とせば、必要な人材が集まらなくなるということを意味している。一方、メーカーでは、銀行よりも低い賃金水準であっても必要な人材を集めることができていると解釈できる。両者とも新卒一括採用が中心で、技術職を除けば、学部学科が違っていてもあまり代わり映えのしない文系学生を採用するとするならば、以下のことが推測できよう。


銀行とメーカーを比べるならば、銀行の仕事のほうがハードでストレスが多く、メーカーの仕事のほうが相対的にのんびりしていて余裕があると思われる。そうなると、サラリーマンとしては、ハードでストレスフルな仕事の見返りに、より多くの賃金を必要とする。だから、銀行の賃金のほうがメーカーの賃金よりも高くないと働きたくない。同じ賃金であったら銀行には就職せず、メーカーに就職希望者が流れるというアンバランスが生じる可能性があろう。メーカーの場合、銀行よりも賃金水準が低くても、その分、ハードさやストレスが少ないから、釣り合いがとれている。もちろん、メーカーはさらに賃金水準を上げれば、就職希望者が増えるかもしれないが、企業利益を考えるならば人件費はできるだけ抑えたいので、現状の賃金水準でよしとする。あくまで、銀行とメーカーという2者の比較のみの極端なケースだが、経済学的に均衡が取れるのが現在の賃金格差であるとするならば、上記のような推論が成り立つことになるのである。


要するに、意味もなく賃金の格差が存在するのではなく、「給料が高い」というのにはそれなりの理由があるということである。