賃金理論2

効率賃金理論

賃金相場の経済学的な決定メカニズムが働いているにしても、それでは説明できない賃金格差もあるようである。例えば、同じ業界、同じ職種であっても、会社によって賃金水準が異なっている場合がある。これらをどう理解するか。


企業にとっては、相場よりも高い賃金を設定することにより、条件によっては、いくつかのメリットが得られると考えられる。まず、賃金を高めに設定することにより、より質の高い人材を獲得できる可能性が高まるということである。賃金を高めに設定すれば、他社よりも応募者数が増えるはずなので、そこで厳正な選別を行なうことによって、応募者の中からトップレベルの人材を選別し採用することが可能になる。もちろん、相場よりも高めの賃金を払う分よりも多くのリターンすなわち生産性を発揮してもらうことが、企業利益を押し上げる条件となる。また、相場よりも高めの賃金水準を設定することで労働市場にシグナルを送り、自己選別を促すこともできる。つまり「あの会社は賃金が高いから、応募者が多く、その中でも優秀な人材が採用されるだろうから、自分は応募しても採用される見込みがない」と考える応募者が増えて応募を敬遠するようになれば、結果的に応募してくるのは、それなりに優秀で自信のある人材に限られてくることも考えられる。そうするとますます、優秀な人材を獲得できる機会が高まる。


つぎに、相場よりも高い賃金水準を維持することで、従業員のモチベーションとコミットメントを高めることが可能になる。相場よりも高いということは、その会社の社員にとって、そこを解雇されれば自分は損することになる。相場と同じ賃金であればそうではない。転職すればまた同じ水準の賃金を受け取れるからである。だから、相場よりも高めの賃金水準を維持している従業員は、解雇されないように真面目に働くわけである。よって、会社側から多少きつめの要求をしても、それが極端でないかぎり従業員は受け入れ、さらにプラスの努力を仕事に向けることにもつながるだろう。


このように、企業にとっては、労働市場における相場以上の賃金水準を設定することによって、優秀な人材の獲得やモチベーション効果を高め、そのプレミアム分を上回る生産性の向上を得ることができる可能性もあるのである。そして、実際にそのようにして企業利益が高まると、企業はますます賃金水準をあげる余裕がでてくる。そして実際に賃金水準をさらに上昇させることで、より優秀でモチベートされた人材を獲得し、維持することができるならば、企業業績と賃金水準の好循環を実現することにもなるだろう。