労働市場による社会的余剰の最大化

労働市場のよる競争均衡が、社会的余剰を最大化する。つまり、企業が利益を最大化するように行動し、労働者が効用を最大化させるというように、企業と労働者のお互いが市場において私的利益を追求することが、結果的に社会的余剰を最大化させるという「見えざる手」が働く。


労働者は、より多く労働に投入するのであれば、より高い賃金を要求する。なぜならば、労働に投入するということは、余暇で得られる価値の機会を逸することになるため、効用を最大化するためには、その機会費用を補うだけの賃金が必要だからである。よって、労働供給の側からみた労働量と賃金の関係は右上がりになる。


企業側は、労働量の増加に伴う生産性上昇が逓減するとするならば、限界労働費用と限界生産性が等しくなるところまで需要するだろう。ということは、賃金を高めに設定するならば、限界労働費用も高まるため、求める労働量は減少するはずである。よって、労働需要側からみた労働量と賃金の関係は右下がりになる。


競争的な労働市場では、労働需要曲線と労働供給曲線の交点で賃金水準が決まる。その場合、労働者から見た場合、その賃率は、少ない労働量で働く場合を想定したときにもらえる賃率よりも高く、その分得をしていることになる。これを労働者余剰とする。逆に企業(生産者)から見た場合、労働供給が少ない場合に覚悟しなければならない賃率よりも低い賃率で全従業員を働かせることができるので、その分得をしていることになる。これを生産者余剰とする。労働者余剰と生産者余剰の和を社会的余剰とする。


賃金水準が、競争的労働市場の交点より高めに決定されても、低めに決定されても、それによって得られる社会的余剰は、交点で決定された(つまり均衡点での)賃金水準の結果もたらされる社会的余剰よりも少ない。だから、市場均衡が社会的余剰を最大化しているのである。


なぜならば、高めに設定されても低めに設定されても、結果としての労働量は均衡の場合よりも減少する。高い場合は企業は労働需要が減退するし、低い場合は労働者の供給が減退するからである。その結果計算される双方の余剰の和は、あきらかに均衡点において計算される余剰の和よりも少ないのである。