羽生善治「決断力」

勝負が決定するまで、だいたい百数十手。この中に流れがある。
流れは人為的に支配できるものではない。対局中にはいろいろなことを考えるが、思ったとおりにはならない。思いがけない展開になってしまう。流れをつくるよりも、サーフィンのように流れにのっていく。波はつくれないが、乗れるかどうかだ。
しかし、波は幾度か変わる。つまり、お互いに何度かの勝機があるということだ。これを掴めるかどうかが実力というものだろう。
羽生(2005:21)

確かに、一個一個の選択の中では間違いや荒っぽいところもあるかもしれない。しかし、全体的な流れを見たときには、一貫しているし、一つの流れに沿ってやっているのだ。
羽生(2005:31)

プロ野球などで、「チャンスに強い。打ってくれるだろう」とファンから期待される選手とのインタビューで「ファンの皆さんのおかげです」と答える場面をよく見かける。これは、決して社交辞令だけではない。周りの信用の後押しが、ぎりぎりの勝負になって出てくるのではないかと思っている。
・・・勝負の世界では、多くの人たちに、どれだけ信用されているか、風を送ってもらえるかは、戦っていくうえでの大きなファクターであり、パワーを引き出してくれる源である。
羽生(2005:46-47)

一気に深い集中力には到達できない。海には水圧がある。潜るときにはゆっくりと、水圧に体を慣らしながら潜るように、集中力もだんだんと深めていかなければならない。焦ると浅瀬でばたばたするだけで、どうもがいてもそれ以上に深く潜っていけなくなってしまう。逆に、段階をうまく踏むことができたときには、非常に深く集中できる。
羽生(2005:89)

引用文献

決断力
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