相場の格言

ことわざや格言には短い文章の中に、1つの小説、あるいは一冊の本にも匹敵するような先人の知恵が濃縮されている。例えば、西野(2005)は、相場格言は、相場で苦労した先人たちの血と涙の結晶であり、その短い言葉の中に、相場の極意、相場の秘伝とも言うべき奥深い意味が隠されているという。ことわざや格言から、相場という場の特徴がつかめてくる。


西野によれば、兜町や北浜は「生き馬の目を抜く」街と呼ばれ、他の人を出し抜いてでも設けようとする人たちがひしめきあっている。情報とガゼネタ、噂と真、人情と非情、幸運と不運、明と暗が渦巻いている。生き馬の目を抜くようなすばしっこさ、ずるさ、せちがらさがあるだけに、それだけの覚悟を持って相場に臨むことが大切である。


相場は急変するため、自分の理屈にこだわったりしていると流れに乗れず、大失敗することが多い。時には予想がことごとく的中して、大当たりすることがある。そういうときには得てして有頂天になり、天狗になりやすい。初心者がビギナーズラックで成功するときも、幸運を英知と取り違え、自分の才能を過信してしまう。そんなときに図に乗って、大金を投入して一勝負をかけると大失敗して、大損することがよくある。


西野は、相場にのめりこみすぎると相場でつまずき、相場で身を滅ぼすと警告する。相場に命をかける相場師と呼ばれる人の末路も概して哀れで、ほとんどの人が相場に失敗し、財産をすっかり失ったり、自ら命を絶っている。その理由としては、休むことを知らないためにいつまでも相場を張り、どこかで大暴落に出会って破壊的な打撃を受けるケース、意地を張って相場の流れに逆らい、自分の力で相場を動かそうとして失敗するケース、借金など身分不相応な相場を張って身動きが取れなくなるというケースがある。


つまり、相場にのめりこみ、相場で成功し、相場が得意になるほど、自信過剰となり、用心することを忘れ、相場を甘く見るようになる。よって、相場の基本原則をいくつも踏みにじって、自ら墓穴を掘ってしまうのである。まさに「相場の最大の敵は自分であって、相手ではない」という格言のとおりである。