経営学は実践に役立つのか

経営学を学ぶことによって、良い経営ができるようになるのか。これは世間でも何度となく繰り返される質問である。経営学は実践の役に立つのか、あるいは、どのように学べば役に立つのか。今回はこの問いを、スキー(もしくはスノーボード)にうまく乗れるようになることに例えて考えてみたい。


スキーやスノーボードで上手に滑るにはどうすればよいか。これは、物理学でいうところの力学的な問いに還元することができるだろう。斜面にでこぼこがあり、それを板で滑る。力学的にこの問題を解析すれば、もっとも上手に滑るための解は計算で導き出されるはずだ。例えば、このように筋肉を使い、このように力を入れて、板をこのような角度にして・・・という形で、科学的かつロジカルに、うまく滑る方法を記述することができる。学問としての経営学がやっていることはこれに近い。つまり、経営学を勉強して熟知すれば、とりあえずは効果的な経営の方法を理にかなった形で説明することができるようになるだろう。


しかし、頭の中でどのようにすればうまく滑れるのかを完璧に理解したところで、スキーやスノボーが上手に滑れるわけではないことはすぐにわかるだろう。スキーやスノボーに上達するためには、実際に何度も滑って練習する必要がある。つまり、体で「感覚」を覚えることなしには上達しない。経営の実践でも同じことがいえる。いくら経営学を熟知していても、実践経験のまったくない人がすぐに上手に経営できるわけがない。


そこで、スキーやスノボーの事例に戻って、どのようにすれば上達できるかを考えてみよう。1つ目の方法は、まず、入門書やレクチャーなどでセオリーを学んで、理詰めで上手に滑る方法を理解することである。これは、まずは経営学をしっかり勉強しましょうということと同じである。次に、学んだセオリーや理論を用いて、頭の中でイメージトレーニングをし、そして現場でその通りに滑ってみる。そうしながら、上手くいかないところを調整していく。そうすることでだんだん上手に滑れるようになっていくだろう。これは、経営学をしっかりと勉強したあとに、頭の中でよい経営をイメージしたりケーススタディでシミュレーションして、それから、実践に挑むという方法である。


もう1つ別の方法がある。それは、入門書とかセオリーとかは無視して、いきなりスキー場にいって滑ってみることである。最初はたくさん転ぶが、だんだんと上手に滑るためのコツが体で分かってくるだろう。それからしばらくして、セオリーの本を読んでみたり、レクチャーを聞いてみたりする。そうすると「なるほど、そういうことか」と「腑に落ちる」瞬間があると思う。これは、先に体で覚えたことを、理屈で整理するということである。そうすると、自分が体で身に着けたことが実は理にかなっていることを納得できるので、頭がすっきりするとともに、より理にかなった方法で練習を続けることができるだろう。これは、経営学など無視して最初はとにかく働き、経営をし、そこで失敗経験や試行錯誤を繰り返しながら感覚をつかんだあとに、経営学を勉強するプロセスに似ている。


最初にセオリーを勉強してから実践する方法、最初に実践から入って後でセオリーを勉強する方法。両方ともそれなりに効果があるだろうし、どちらが優れているというわけではないだろう。だが、どちらのケースにしても、セオリーは体系的な知識を提供するという意味において本人の役に立っているに違いない。前者は、大学の商学部経営学部で経営学をみっちり勉強してから、あるいはさらに大学院で経営学を勉強してから社会に出るようなケース。後者は、関係ない学部を出て5〜6年もしくは10年以上働き、実践的な感覚が身についた後にビジネススクールのMBAコースで経営学を勉強するようなケースである。


経営学は役にたつのか。どのように学べば実践に役立てることができるのかについて、なんとなくわかってもらえただろうか。