論文で交互作用を扱うときの心得

組織行動論や人的資源管理論の分野で非常に多くの論文が、交互作用を扱う。交互作用は、通常は調整効果を示すもので、XがYに与える影響を、Wが調整する、とうい類のものである。つまり、X(独立変数)が、Y(従属変数)に与える影響が、W(調整変数)の値によって異なるということを示すものである。


この交互作用を扱う際に、十分な理論的説明がないまま安直に交互作用仮説を立てた上で、データの統計分析で交互作用が有意であることをもって、仮説が指示されたと結論付ける論文が多く、それらは多くの場合、掲載不可となる。その理由としては、理論的な説明が不足しているために、推論が間違っている可能性が否定できないからである。例えば、WがX→Yを調整しているという仮説を提示してあっても、実はXがW→Xを調整しているかもしれないという可能性が否定できない場合である。なぜ、そうなるのかというロジカルかつ理論的な説明が不足していれば、データとして交互作用が有意になっていても、それがいったい何を意味するのか不明なのである。どのような理由でそうなるのかの確固たる説明がなければ、いったいその結果がどんな理論に貢献するのか、実践にどのような形で役立つのかを特定できない。


Andersson, Cuervo-Cazurra & Nielsen (2014)は、研究・論文において交互作用を扱う際の作法を示している。まず、連続変数同士の交互作用には3つの種類がある。1)増幅的交互作用(2つの変数がともに従属変数に同方向の影響を及ぼすが、両方が同時に起こると、単なる加法的効果以上の増幅的効果が起こる、2)緩衝的交互作用(独立変数が従属変数に与える影響を調整変数が弱める)、3)対立的交互作用(2つの変数がともに従属変数に同方向の影響を及ぼすが、交互作用は増幅的効果とは逆になる。調整変数がカテゴリー変数の場合は、1)存在的交互作用(調整変数の値によって、独立変数の従属変数への影響があるときとないときがある、2)逆方向交互作用(調整変数の値によって、独立変数が従属変数に与える影響の方向性が変わる。


Anderssonらは、論文で交互作用を扱う際には、以下のステップで行うことを推奨している。ステップ1として、まず大切なことは、直接効果と調整効果の根拠となる「理論」を明確に特定しておくことである。つぎに、ステップ2として、「XはYに影響を与えるなぜなら・・・」というかたちで独立変数が従属変数に与える影響を理論的に説明する。なぜ、XとYが関連するのか、なぜ、XからYの方向に因果関係が起こるのか、理論的に説明する。この理論的説明がすでに通説であり、それを覆す必要がなければ、それを本研究の「ベースライン仮説」(調整変数の導入によってその関係に変化が起こるもの)として提示する。


ステップ3として、特定の調整変数を選択する理由を「理論的に」説明する。理論から、当該調整変数を導入すると、その変数の値によって、独立変数と従属変数の関係が変化することを論じるわけである。ステップ4では、もし調整変数が従属変数に直接効果をもたらすことが想定するのであれば、それを理論を用いて説明する。重要なのは、調整変数が従属変数に直接的に与える影響を説明するメカニズムは、独立変数と従属変数の関係を調整するメカニズムとは異なる点を明確にすることである。ロジックが違うわけである。


そしてステップ5では、いよいよ調整変数の理論的説明に入る。「XがYに与える影響は、Wが存在することで強まる(弱まる)、なぜなら、Wが、XがYに影響を与えるメカニズムを・・・という形で変化させるからである」というような理論的説明をする。XがYに影響を与えるプロセスは、複数の理論によって説明が可能な場合がある。その場合は、ステップ1および2で、どの理論に着目するのかで、調整変数が変わってくる。その調整変数は、ステップ1および2で特定された理論を前提とするならば、そのメカニズムを変化する要因であると推論されるわけである。焦点を当てる理論の選択を間違えれば、そのロジックが成り立たなくなる。


ステップ6として、WがYに与える効果をXが調整するという「逆の調整関係」の可能性を排除する。あくまで、XがYに与える効果をWが調整するという方向での交互作用を仮説として提示しようとしていることを理論的に示す。仮説や交互作用グラフはこの方向と一致したかたちで作成されなければならない。そして最後にステップ7として、データを統計分析して交互作用を確認したならば、それを、もう一度理論を用いて解釈する。交互作用項が統計的に有意だから調整仮説が指示されたというだけでは不十分である。確認された調整効果が意味することを、(多少繰り返しにはなるが)理論的に説明する。


上記は、分析のレベルが同じ場合(つまり、同じ分析レベルでの諸変数を扱う場合)の交互作用についての心構えと作法でるが、Anderssonらは、さらに、異なる分析レベル(マルチレベル)を含む諸変数および交互作用を扱う場合の心がまえと作法についても説明している。

文献

Andersson, U., Cuervo-Cazurra, A., & Nielsen, B. B. (2014). From the Editors: Explaining interaction effects within and across levels of analysis. Journal of International Business Studies, 45(9), 1063-1071.