ツキの流れとの付き合い方

羽生(2011)は、「ツキには多くの人々を魅了し、揺さぶり、惹きつける普遍的な要素がある」という。それを「魔力」と表現する人もいるだろうと述べる。だから、ツキについて考えたり、関わったり、試してみたりすることは、とても楽しく面白いことなのだという。


羽生が将棋で七冠を取ったときについては「何か大きな流れのなかに身を置いていて、自分の力ではないものが働いているようだった」と述べている。対局をして一手一手を決断するのは自分自身で、そこには何の介入の余地もないはずなのだがに、自分も一つの波に乗っているような感じがしていたという。このようなツキへのアプローチ法として以下のようなものを羽生は挙げている。


1つは、ツイている時はできるだけそのツキを維持し、継続させることである。ものごとが順調にいっているのだから、変化はせずにその状態をキープする。飛行機が上昇した後には水平飛行になるのと似ているかもしれないという。もう1つは、ツイている人物や組織のやり方を真似することである。やり方を真似てみて、本当に自分で納得できれば、おのずと効果が現れるものだと考えているという。


ただ、ツイていない人や団体を見て反面教師としてその逆を行うのはお薦めできないと羽生はいう。なぜなら「不運な人の逆をやれば幸福になれる」という発想は、正々堂々とう武士道に反するし、このようなアンフェアで小賢しい方法は、長い目で見ればメリットはないからだと指摘する。また、ツキを失う方法は簡単で、人道に反することをすれば、容易に状況は悪くなるはずだという。