「総(トータル)」「限界(マージナル)「平均(アベレージ)」

総概念・限界概念・平均概念の関係は、企業の経済学でも重要である。人的資本に当てはめて考えよう。


企業は資本(K)と労働(L)で生産を行なうと単純に仮定しよう。話をわかりやすくするために、資本は一定とし、労働量(従業員の数)が増えるとともに、生産力(Q)が上がると仮定しよう。


まず、総生産量曲線(TP曲線)を考えよう。企業に誰も従業員がいないときには生産量は(Q=0)で、企業の人数が相対的に小さいときには、従業員1人加わるごとの生産量の増加は高いとする。しかし、従業員の数が増えてくると、1人加わるごとの生産量の増加が鈍ってくる。そして、あるポイントを超えると、1人加えても生産量は伸びず、さらにいくと、1人加わると生産量が落ちることになる。この点をCとしよう。C以降の状態は、人数が増えすぎて、組織内の調整コストが生産量の増加分を超えてしまうことを示唆する。


上記の話で、従業員1人追加した場合に増える生産量を、限界生産量(MP)とし、限界生産量曲線(MP曲線)を考えよう。限界生産量はTP曲線の1階の微分であり、数式で表すと(\frac{dTP}{dL})となる。総生産量曲線が、変曲点Aを持つならば、限界生産量曲線の傾きはAまではプラスであり、Aでゼロになった後、A以降でマイナスに転じる。それに対応して、限界生産量曲線は、Aまで増加して、A以降減少していく。そして、Cを超えるとマイナスになる。


次に、平均生産量曲線(AP曲線)について考えてみよう。平均生産量曲線は、従業員1人あたりの生産量と解釈しよう。つまり、企業労働力の生産性と見よう。この曲線はどうなるであろうか。グラフ的に見ると、平均生産量曲線は、総生産量曲線の任意の点と、原点とを結んだ直線の傾きの動きと捉えることができる。最初のころは、従業員数が増加するとともに、平均生産量(生産性)が増加していく。そして、総生産量曲線と原点とを結ぶ直線が、総生産量曲線と接するときに最大化する。


平均生産量(生産性)が最大化するそのポイントというのは、実は、平均生産量曲線のQと、限界生産量曲線のQとが等しくなる点である。なぜなら、限界生産量曲線は、総生産量曲線の接線の傾きに他ならないからである。このポイントをBとしよう。平均生産量曲線は、Bを超えると減少に転じるのである。つまり、Bが、生産性の最大値であり、Bを超えると、企業全体の生産量は依然増え続けるが、企業の生産性は低下していくのである。


限界生産量曲線と平均生産量曲線との関係について重要なことは、Bまでは、限界生産量が、平均生産量を上回っていることであり、Bにおいて、限界生産量が平均生産量と等しくなり、B以降は、限界生産量が平均生産量を下回るということである。だから、企業が1人あたりの生産性を最大化したいのであれば、限界生産量が、平均生産量を上回るかぎりにおいて、従業員を追加しつづければよいことになるのである。つまり、Bまででは、従業員1人を追加することは、それまでの1人あたりの生産量(生産性)以上の生産量の増加が見込まれる(
よってそれに応じて平均生産量も増加する)わけである。