動機付けとしての昇進

ケース

同業を営むA社とB社がある。新卒初任給は、A社がB社よりもかなり高い。A社が25万円なのに、B社は15万円だ。しかし、なぜかB社のほうが人気が高い。なぜだろうか。それは、昇進と賃金のからくりに原因がありそうだ。A社は、初任給こそ高いが、その後の賃金の上昇はなだらかである。昇進してランクがあがっても、昇給額はそれほどでもない。一方、B社の場合は、初任給は低いが、何年かのちに昇進のチャンスがあり、昇進できると年収が大幅にアップする。入社後10年くらいたつと、順調に昇進していったB社の社員は、平均的なA社の年収の1.5倍もあるのである。


しかし、注意しなければならないからくりもある。B社の場合、昇進をし続けると、そのたびに年収が大幅にアップしていく。しかし、昇進できなかったり、昇進がとまると、年収が低い水準で止まってしまうことだ。当然のことながら、組織のポストは上にいけばいくほど狭まってていくため、全員が昇進できるわけではない。入社後には昇進レースが待っているのである。

トーナメント理論
  • 昇進に伴う昇給が大きいほど、人々は昇進しようと一生懸命努力する。
  • 賃金体系には、「水準」と「スプレッド」の2つの次元の特徴がある
  • 昇進の確立が努力に依存しなくなるにしたがって、労働者の努力は減少する。昇進が運に左右される度合いが強まる場合、上級職と下級職の賃金スプレッドを拡大することによって、努力の減少傾向を相殺することができる。

トップマネジメント報酬のインセンティブ効果
http://d.hatena.ne.jp/sekiguchizemi/20050324

絶対成果と相対成果
  • トーナメント型は相対成果が適用できる
  • 相対成果は絶対成果よりも容易で測定が低コストである。
  • 相対報酬は、運の要素を排除してくれる(絶対評価だと、外部環境が悪化することにより全員が報酬の切り下げを余儀なくされることもある)
  • 評価する監督者の主観が報酬決定に与える影響を低減することができる(定数を昇進させることにしておくなど)
  • トーナメント方の相対報酬では、勝者の報酬を分け合うというかたちで社員が共謀する可能性もある
  • 社員同士が相手を邪魔したり非協力的な関係になる危険性がある。
振り分け
  • 昇進の決定に要する時間が長いほど、最も有能な人が昇進を勝ち取る可能性が強まる。逆に、最も有能な人は、昇進待ちのために、たいしたことのない仕事によって時間を浪費することになる。
  • 相対比較によって昇進させる企業では、階段が多いほど、トップの人とボトムの人との能力格差は大きい。
労働力の異質性
  • 社員の能力に違いがありすぎると、低レベルの社員が早くからあきらめてしまう(勝敗が決まってしまう)。両者が力を抜くインセンティブにつながる
  • 同じ能力を持つ社員同士をグループ化することが敵策
内部昇進と外部採用
  • 外部採用を取り入れることによって、内部昇進の仕組みのもとで労働者が共謀する可能性を低めることができる。ただ、内部候補者よりも能力がかなり優れている場合に限るのがよい。


トップマネジメント報酬のインセンティブ効果
http://d.hatena.ne.jp/sekiguchizemi/20050324


ピーターの法則
http://d.hatena.ne.jp/tomsekiguchi/20050217


昇進によるインセンティブ設計と、業績給によるインセンティブ設計の比較
http://d.hatena.ne.jp/tomsekiguchi/20050218

日本企業で顕在化した問題点とその対処
  • 大企業の問題、中小企業の問題
  • 大企業における出向転籍政策、職能資格制度
昇進構造と入札・コンペ
  • コンペで勝てるのは一社であっても、勝ったときの収益が大きければ、各社は努力を重ね、しのぎを削る。
  • ある程度のノイズ(不確実性)がある場合、努力を重ねることによって他社との差が広がり、一人勝ちの様相を示せれば、勝利の確率が高まる(不確実性が低減される)
  • 追加努力の貨幣価値と、代替案の貨幣価値との比較
  • 談合・共謀のインセンティブ
昇進トーナメント

http://www.asahi-net.or.jp/~GA2A-MYZK/mare/mare074.html#02

トーナメント方式はまた、企業の経営者が「業績給をケチる」ような恐れがある場合にも役立つ。業績を上げたものを昇進させないと有能な社員が流出する恐れがでてくるし、そう言うことがハッキリすると、従業員を積極的に仕事に向かわせる動機付けができないからである(→不完全なコミットメント)。だから、業績給をケチる経営者であっても昇進システムは避けて通れない。


トーナメントが「順位」に依存し必ずしも「高業績」によって決められるモノではないので、従業員みんなが手を抜いて働いても褒賞にありつけてしまうという問題である。「お役所仕事」なんていう言葉もあるが、仕事を適当に手を抜いて
行っても順番によって昇進が可能なら、従業員はさほど働かない。そしてまた順位で昇進が決まるのなら、まじめに働いて高い業績を上げるよりも、ライバルを妨害して蹴落とす方が楽な場合も生じてくる。

まとめ
  1. ある人の報酬は自分の行動に影響を与えるだけでなく、その地位に昇進したいと熱望している人の行動にも影響を与える。
  2. 給与体系には水準(平均給与)とスプレッドの次元がある。スプレッドが大きいほど努力する。全体の水準とスプレッドのバランスが大切。
  3. ノイズや運が存在する場合にはスプレッドを拡大する必要がある。
  4. 小さな昇給に対して多くの人々が競争しなければならない構造は努力を低下させる
  5. 昇給額は下級レベルより上級レベルのほうが大きい。下級レベルの勝利は次の試合への参加オプション価値を含むから。額面はその分低い。
  6. 昇進のような相対インセンティブは、評価が簡単で安価であり、共通のノイズの影響を軽減できる。
  7. 労働者が結託する可能性は、競争者を増やすことにより軽減できる。ただし昇進の価値を引き上げたり昇進数を増やしたりする必要がある。
  8. 内部昇進は共謀しやすくなる。外部登用の可能性で牽制できる。
  9. 遅い昇進ほど適切な候補者が選べる可能性が高まるが、有能な労働者が昇進までの時間を浪費する。遅い昇進はインセンティブを長期化する。
  10. 競争者集団が異質の場合は努力しなくなる。同質者でくくるのがよい。