離職、解雇および希望退職

  1. 企業業績の悪化で従業員を削減しなければならない場合、どの層を削減対象とするのが合理的か。
  2. 希望退職制度を導入するとした場合、割り増しの退職手当はいくらに設定するのが適切か。
  • 若年中高年比率
    • 産業の技術進化が極めて早い場合は、若年層が新技術を身につけている可能性が高い。
    • 仕事上で身につける能力の量は、学校などで身につける能力の量よりも少ないと、中高年によるOJT教育などのニーズが少ない
    • 企業の経験に独自性がある場合、企業に勤め続けるしかそういった能力を身につけることができないので、中高年者の価値が高い。
  • 企業特殊的人的資本が重要であれば、年齢分布上で両端の人材(新入社員と定年間近の人材)を解雇すれば企業は利益を極大化できる。

不況もしくは其の他の要因により、企業の製品需要が減り、それが原因で企業業績が悪化したとする。企業は、製品価格の値下げなどの施策と同時に、やむを得ず人員削減策を実行するとする。人員削減をすることが決まっており、社員のどの層(話を単純化するため、年齢や勤続年数)を解雇しなければならないかについて最適な策を考える。


企業の全従業員の相対的貢献度(生産性の分布の形)が一定だとするならば、企業業績の悪化による製品価格の値下げは、すべての従業員の生産性を一律に切り下げる方向に働く。


入社したての社員の現在価値とその社員の給料の現在価値が、業績悪化前で等しいとするならば、業績悪化後は、社員の現在価値のみが低下することによって、企業にとってはマイナスの負担となる。またこの社員は、今後、企業特殊人的資本として投資していく予定であるわけであるから、来年、再来年と、企業の持ち出し(マイナス)は続き、企業業績への負担は増大する。よって、入社したての新人から解雇していくという選択肢が残る。


同様に、定年間際の社員について、現在価値と給与の現在価値が等しい、もしくは、これまでの総貢献度と総賃金が収支トントンのあたりに近づいている場合、企業業績の悪化で、社員の貢献度が一律低下することによって、企業が損をする常態に陥る。この損を防ぐには解雇するという手段が考えられる。また、企業は、企業特殊的人的資本への投資の回収もほぼ終わりかけている。よって、企業業績の悪化によって人員削減が必要なときは、定年間際の社員から解雇していくという選択肢が残る。


上記2つの、選択肢以外の、年齢・勤続年数の中間層の社員については、企業はすでに企業特殊的資本に投資をしている最中、もしくは回収の途中であり、投資してできあがった企業特殊的人的資本を、未回収のまま解雇するのは得策ではない。この種の社員は勤続することによって、投資した分を回収できるため、企業にとどめておくべきである。

  • 希望退職手当を支給するとすれば、いくら支給すべきか。
  • 労働者にとっての代替物の現在価値が現在の企業における生産性の現在価値を上回っている限り、手当てを支給しても損にならないような退職の買収が可能である。

企業業績の悪化などの原因で、ある時点における従業員の現在価値が、給与の現在価値を大きく下回ってしまったとすると、従業員が在籍しつづけることによって企業の損失が顕在化する。損失額は、L=給与の現在価値−低下後の従業員現在価値


一方、従業員がその時点で企業を辞めた場合の代替案(転職先の給料、余暇の価値など)の現在価値が、当該企業における現在価値よりも高いとする。このとき、企業は適当な退職手当を払うことによって、その従業員の退職を勧奨するのが合理的となる。


従業員が喜んで退職勧奨に応じる条件は、代替案の現在価値+退職手当が、在籍しつづける場合の給与の現在価値を超える場合である。つまり、給与の現在価値−(退職手当+代替案の現在価値)<0である。式を変形すれば、退職手当>給与の現在価値−代替案の現在価値となる。仮に、退職手当=給与の現在価値−代替案の現在価値とするならば、先ほどの式と比べて、退職手当<Lとなる。よって、Lよりも少ない退職手当を支給することが可能であり、その場合、従業員が在籍し続けるよりも企業にとっての損失額が少なくてすむことになるのである。

    • 生産が低水準でかつ良い代替物があるほど、退職勧奨は現実的となる。
    • 逆に言うならば、企業にとって、どのような従業員に対しても希望退職制度が機能するわけではない。代替案の現在価値が、当該企業における現在価値よりも小さい場合には、合理的な従業員は、企業が損失を減らすための退職勧奨に応じるインセンティブを持たない。

企業特殊的人的資本をたくさん持っている場合は、代替案の現在価値は低いはずであり、希望退職には向かない。また一般的には雇用しつづけることによって企業が価値を回収できる。

生産性の相違のみが人員削減対象の選別の基準とはならない。生産性が高くても人件費コストが高い場合がある。生産性とコストの比で見るべきである。

ウインドウ・プラン

希望退職適用の期間が設定され、その発表のタイミングが不確実であること。

  • 理由、あらかじめ期間が予測できると、従業員はその期間にあわせて自分の生産性を下げるインセンティブが働く。なぜなら、そうすることによって、企業が支払う退職手当をつりあげようとするためである。