理論論文の5つの構成要素とその使い方

経営学において最も優れた理論論文を掲載している雑誌のひとつが、Academy of Management Review(AMR))である。この雑誌から様々な革新的な理論が提唱されてきた。では、AMRに掲載されるような優れた理論論文はどのような特徴を持っているのだろうか。Lange & Pfarrerは、AMRに掲載されるレベルの論文を書くために知っておくべきこととして、理論論文を構成するうえで必須の5つの要素について解説している。5つの要素とは、共通の土台(common ground)、複雑化(complication)、懸念(concern)、 活動の道筋(course of action)、貢献(contribution)である。Lange & Pfarrerによれば、たいていの優れた論文においては、この5つの要素が、要約と最初の数段落にコンサイスにまとめられて述べられている。


まず、論文においては、読者を自分の提唱する理論(ストーリー)にいざなうための共通の土台(common ground)を築いておく必要がある。論文のメインのトピックについての先行研究などに基づき、これまでに分かってきたこと、まだ分かっていないことなどについて、読者との合意形成をしておくことが必要だということである。その上で、次のステップは、読者を自分が語りたい内容に振り向かせることである。これを複雑化(complication)を通じて行う。これは、現状の知識の状態における問題提議を行うことである。現状の理論の重要な欠落点を指摘したり、一筋縄ではいかないことを示して読者の注意をひく。そして、それらの問題点が、当該トピック、当該分野にとって重大な懸念材料である(concern)ことを示すのである。単に「この部分がまだ研究されていないから取り組む」では読者の関心を得ることはできない。なぜ、指摘した問題が懸念されるべきなのか、解決されなければならないのかを説得力のある形で示さなければ読者は振り向いてくれないのである。


読者との共通の土台を築き、その土台における重大な問題提議とそれに対する懸念を共有することに成功すれば、次にはじめて自分の研究、自分の理論の固有の貢献を示すことにつなげることができる。このメインでかつ論文の心臓部分にあたる要素が、活動の道筋(course of action)である。ここで、新しい理論の構築によって指摘した問題と懸念に対する解決策を示すわけである。ここでは、数多くの理論構築の指南の書や論説が示すようなかたちで理論構築を行うことになる。とりわけ大事なのは、ここで示す理論構築が、最初に提示した共通の土台、複雑化、懸念と深く関連しており、それに効果的に対処できることを示すことである。そして理論論文の最後の要素が貢献(contribution)である。ここで、これまで示してきた活動の道筋(course of action)すなわち理論構築が、いかなる形でこれまでの当該トピック、当該分野における対話のあり方を変えるのか、すなわち先行文献に斬新かつユニークな貢献をしているのかを示すのである。


Lange & Pfarrerは、上記に挙げたような理論論文の5つの要素がうまく噛み合った論文の構造を形成することで優れた論文が出来上がることを示している。とりわけ、論文の要約と最初のセクション(導入部分)で、この5つの要素がコンパクトにまとめて述べられている必要があるという。要約は短いのでごく簡単に、そして最初のセクションでは3〜4ページを割いてもう少し洗練された形で5つの要素を語る。この5つの要素の1つ、2つ以上が含まれた魅力的な論文タイトルも重要だと指摘する。そして、論文の2つめのセクションでは、5〜7ページを使って、共通の土台を先行文献のレビューを取り入れながらより詳しく説明する。そして、共通の土台に対する問題提議(複雑化)とそれに対する懸念に触れることで、第2セクションを終える。そして、論文のメインである活動の道筋に入る。第2セクションの最後に、この活動の道筋を分かりやすく示す図を挿入するのもよいだろうという。そして、論文の最後のセクションで、貢献について詳しく述べる。論文の第一セクションで触れた貢献をもう一度持ち出して、ここでより詳しく説明する。


これらの5つの要素が入った優れた理論論文の構造について実践的な視点でいうならば、読者が、タイトルと、セクション見出しと、一連の命題と、図表をざっと眺めることによって、この論文が何を示そうとしているのか、既存の文献をどのように拡張させようとしているのか、そしてこの論文のユニークな貢献は何なのかがよく分かるというのが理想だとLange & Pfarrerはいう。

文献

Lange, D., & Pfarrer, M. D. (2017). Editors’ Comments: Sense and Structure—The Core Building Blocks of an AMR Article. Academy of Management Review, 42(3), 407-416.