研究者にとって最も大切なこと

酒井(2006)は、研究者になるうえで最も大切なことは「個」に徹することだという。一流の研究者はみな強烈な「個」を持ち、ひたすら「個」に徹する。個に徹するとは、「自分で納得するまで考える」ということに尽きるという。「個」に徹することで、科学に最も大切な「創造性」が生まれる。他人本位では創造はできない。独創性が重視される科学の世界では、発想の独創性が命なのである。二番煎じは通用しない。また、個に徹するということは、自分で物事の是非を判断し、あらゆる権威に屈しないということでもあるという。


酒井は、独創性とは「ひとと同じことはしない」という原則だともいう。オンリーワンを目指すことに等しい。もちろん、あえて集団に群れずに独創性を発揮するのは難しい。他人に認めてもらいたいという気持ちは自然な願望である。しかし、自分で本当によいと思える仕事を残すことが大切で、他人の評価に一喜一憂してもしかたがない。自分を正当に評価できるのは自分しかいないのである。研究者として「独創性」こそが最も大切だと考えるならば、どの国にいようと、いつの時代に生きようと、「他人に左右されず、決して群れない」ことが大切なのだと酒井は主張するのである。


また研究者にとって「考えること」も特に大切である。そのためには「飢餓感」もしくは、現状に甘んじることを嫌い、常に新しいアイデアを渇望するような「ハングリー精神」が必要である。サイエンスでいえば、考えるということは、余分なことを考えないということでもある。酒井は、アインシュタインの「すべてはできうる限り単純にされるべきで、より単純という程度では良くない」を紹介する。研究では「何をやるか」よりも「何をやらないか」のほうが重要だともいう。一生続けても悔いはないというテーマを見つけ、それに集中するのである。そして、本質以外を切り捨てる。余分な要素を切り捨てることで見通しが良くなり、物事の本質が見えてくる。