技術経営(MOT)とは何か、どう成功させるのか

伊丹・宮永(2014)は、技術経営(MOT)とは「技術を武器にする経営」であるという。あるいは「イノベーションのプロセスを経営すること」ともいう。ここでいう「経営」とは伊丹・宮永によれば「他人を通して事をなす」あるいは「大勢の他人に自分が望ましいと思う何事かをしてもらう」ことである。イノベーションのプロセスとは「筋のいい技術を育て、市場への出口を作り、社会を動かす」ことである。


伊丹・宮永は、上記のようなかたちで定義される技術経営(MOT)の本質の1つは「イノベーションが生まれるまでの長い過程で生まれる組織内外のさまざまな人間社会の力学のマネジメント」であり、もう1つは「技術を育て、市場への出口を作り、社会を動かしていくために、組織で働く人々による学習活動をマネジメントすること」であると論じる。そのためには、自然の「理」の理解に加え、人間社会の「情と理」の理解が必要だと説く。さらに、他人が顧客からの学習、自然からの学習、社会からの学習をすることをマネジメントするためには、教育者としてのスタンスを持たなければならないという。つまり、とりわけ技術経営を志す技術者にとっては、自然科学的視点に加えて人文・社会科学的視点および教育学的視点を追加することが重要であるというわけである。


筋のいい技術を育てるのが「研究開発」である。伊丹・宮永によれば、研究とは「自然に学んで新しい知を発見すること」で、開発(実用化)とは「新たに発見された知を既存の知と組み合わせて人間に役立つ製品やサービスを世に送ること」である。研究は新たな知の発見であり、開発は発見された知の利用である。また、研究開発以外に日常業務のうちで、商品改良や生産工程改良を通して蓄積される技術もあると伊丹・宮永はいう。そして、筋のよい技術を見極めることも大切であるが、これについては「科学の原理に照らして、原理的深さを持つ」「社会のニーズの流れに照らして、人間の本質的ニーズに迫っている」「自社の戦略に合致し、事業として展開のポテンシャルが大きい」「技術を担う人材が存在する」という視点から判断することを示唆する。