優れた論文を書くための修辞学的テクニック(3)

Locke & Golden-Biddle (1997)によって見出された、優れた論文を書くためのテクニックのうち、(2)問題状況の設定(その問題を本研究が解決するというストーリーにすること)についても、彼らは、3つの基本となる「型」を示している。


1つ目の型は「未完成(incompleteness)」と呼ばれるものである。これは、これまで発展してきた当該分野の研究は、まだ未完成であるという点を強調して、本研究がその継続的発展に寄与することを示すようなテクニックである。このテクニックを可能にするレトリックとしては、(1)既存の段階での欠陥部分、まだ埋められていない溝を指摘する、(2)本研究が既存の研究ストリームの欠陥を埋める萌芽的ステップであることを示す、(3)先行研究の問題点などを丁重に指摘する、(4)本研究の暫定的な貢献を控えめに記述する、というものがある。


2つ目の型は「非適切性(inadequacy)」と呼ばれるものである。これは、これまでの先行研究が、異なる視点を適切に統合していなかったり、対象を適切に理解していないということを指摘したうえで、本研究がその非適切性を解決するかたちで貢献することを示すようなテクニックである。このテクニックを可能にするレトリックとしては、(1)、先行研究が見落としている部分を明確にし、他の視点がそれを補うことを示す(2)、本研究が、先行研究の見過ごしを修正する最初のステップとなることを示す(3)、控えめでありながらも、本研究の貢献を直接的に主張する、(4)代替的な視点をサポートする先行文献を活用する、(5)提案する視点の味方となる視点を控えめに紹介する、などがある。


3つ目の型は「通約不可能性(incommensurability)」と呼ばれるものである。これは、先行文献に見落としがあるだけでなく、間違っているということを指摘し、本研究がそれを修正していくことによって貢献することを示すテクニックである。このテクニックを可能にするレトリックとしては、(1)既存の視点に対して真っ向から挑戦する、(2)既存の視点を自分たちの視点に置き換える、(3)自らの貢献を、控えめながらも直接的に示す、(4)挑発的な言い回しなどを用いて通約不可能性を指摘する、などがある。

文献

Locke, K. & Golden-Biddle, K. 1997. Constructing opportunities for contribution: Structuring intertextual coherence and "problematizing" in organizational studies. Academy of Management Journal, 40, 1023-1062.